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百物語 第64話
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むかしむかし、都でも名のある屋敷に、どこからともなく一人の美しい女がたずねてきました。
「どうか、お屋敷で働かせてください」
屋敷には女中(じょちゅう)が大勢いましたが、奥方は女の気品の良さが気に入って、しばらくおいてみることにしました。
すると、言葉使いといい、こまやかな気くばりといい、もうしぶんありません。
花をいけさせても、字をかかせても、ぬいものやそめものをさせても、すばらしい手なみです。
屋敷の主人も、すっかり気にいって、
「わが屋敷の宝じゃ。部屋をあたえ、大事にいたせ」
と、奥方にいったほどです。
そうした、ある晩のこと。
奥方が夜ふけに女の部屋の前をとおると、あんどんが、ぼんやりともっていました。
「いまごろまで、何をしているのかしら?」
奥方がそっとのぞくと、体から頭を抜き取った女が、抜き取った自分のくびを鏡台の前において、その顔にお化粧をしているのでした。
あまりのことに、奥方は声も出ません。
女はお化粧をおえたくびを両手でもちあげ、くいくいっと、体にはめもどすと、何事もなかったようにねむりはじめました。
「た、大変でございます!」
奥方は主人の部屋にかけこんで、目にしたことをうったえました。
そして二人は相談をして、女を一日もはやくやめさせる事にしました。
あくる朝、奥方は女にいいました。
「あなたには、いつまでもいてほしいけれど、主人のいいつけで、お女中をへらさねばなりません。あとから入ったあなたをそのままにして、ほかの者に、ひまを出すことはむりですから・・・」
話しを聞いていた女は、みるみる目をつりあげて、
「さては、見たなっ!」
と、耳までさけた口から、おそろしい声をあげて、奥方にとびかかろうとしました。
その瞬間、
「化け物め、思い知れ!」
と、部屋に飛び込んだ主人の刀がひらめきました。
主人に斬られて亡骸になった女の正体は、なんと年をへた大きなネコで、尾の先がふたまたになっていました。
ネコまたと呼ばれる妖怪です。
そしてひたいには、鬼のような角が生えていました。
「みやびな家に、長い間飼われていたネコであったのだろう。よく働いてくれたが、妖怪を家においておくわけにはいかん。許せよ」
主人と奥方は、ネコまたの亡骸に手をあわせました。
おしまい
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