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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第66話
ちんちんこばかま
むかしむかし、美しい娘がいました。
その子は、とても美しい子ではありましたが、大変な不精者(ぶしょうもの)でした。
この娘もやがて年頃になって、ある侍の嫁になりました。
夫がいくさに出かけていった留守のあいだ、若い嫁は毎日、のんびりと暮らしていました。
ところが、ある真夜中に、とつぜん不思議なことがおこったのです。
なにやら、まくらもとで音がするので、目が覚めた嫁がひょいと見るとどうでしょう。
小指ほどもない小さな男たちが、何十何百と集まって踊っているのです。
しかもその男たちは、一人のこらず祭りの日にきるようなかみしもをつけて、腰には大小(→刀の事)をさしています。
そして手をふったり、足をあげたりして、おどりながら歌うのです。
♪ちんちん こばかま
♪夜も ふけてそうろう
♪おしずまれ ひめぎみどの
♪や とん とん
※わたしたちは、ちんちんこばかまでございます。夜もふけました。おやすみなさい、ひめぎみさま。
こんな歌を、くりかえし、くりかえし歌うのです。
歌ってはおどり、おどっては歌う。
そしてときどき、ちらっちらっと、嫁の方をむいてにらむのです。
(言葉はていねいだけれど、小人たちは、わたしをいじめるつもりなんだわ)
そう思って嫁は、
「あっちへおいき、おいきったら!」
と、追いはらったのです。
ところが、追いはらっても追いはらっても逃げません。
でも捕まえようとすると、素早く逃げまわります。
ただの一人も、つかまりません。
手をふったり、足をあげたりして、
♪ちんちん こばかま
と、口をそろえて歌いながら、あざけるようにおどりまわるのです。
この奇妙な小人たちが化け物だとわかると、嫁はおそろしくなりました。
しかし、おそろしくても武士の妻です。
屋敷の者にはだれ一人、そんな事は言えません。
小人たちは、毎晩毎晩やってきました。
夜中になると、まくらもとにあらわれて、
♪ちんちん こばかま
♪夜も ふけてそうろう
♪おしずまれ ひめぎみどの
♪や とん とん
と、歌いまくり、おどるのです。
嫁は気味が悪くて眠ることが出来ず、とうとう病気になってしまいました。
そしてそうこうしているうちに、夫が帰ってきました。
見ると妻が病の床にふせっているのでびっくりしましたが、やさしく看病してやりながら妻の口から、小人の化け物の話を聞いたのです。
「さようか。でも心配することはない。きっと、その化け物を退治してあげるよ」
さて、夜になりました。
もうそろそろ、化け物の出てきそうなころです。
侍は、押し入れの中にかくれて、
(いったい、どんな化け物だろう?)
と、様子をうかがっていました。
あたりが、しーんと、しずかになった夜ふけ。
侍は刀のつかに手をかけて、妻のまくらのそばを、じーっと見つめています。
♪ちんちん こばかま
♪夜も ふけてそうろう
♪おしずまれ ひめぎみどの
♪や とん とん
どこからともなく、歌の声が聞こえてきました。
だんだん歌がはっきり聞こえて、妻のまくらもとに、小指ほどもない小さな男たちがあらわれました。
妻のいう通り、かみしもをつけ、腰に大小をさして、『ちんちんこばかま』を歌いながら、しきりにおどっています。
(うむ、なるほど、こやつらか。・・・えい!)
侍は刀を抜くと、たたみの上すれすれに走らせました。
しかし小人たちの姿はパッと消えて、あとにはただ、ひとつかみの古いようじが、ちらばっているだけでした。
それを見て、侍は妻に言いました。
「ごらん。これが、お化けの正体だよ。お前が無精(ぶしょう)で、つまようじのしまつをきちんとせぬからだよ。お前はいつも、つまようじを使ったあと、たたみの間につっこんでおいたろう。それでつまようじが、腹を立てて化けてきたのさ」
いわれて妻は、たたみの上にちらばっている古ようじを、またたきもせずに、じいっと見つめていました。
おしまい
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