福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第67話
こんな暗い晩
むかしむかし、旅の商人(しょうにん)が、宿屋を見つけました。
雨のしょぼしょぼふる、暗闇の晩のことです。
「一晩、とめてください」
商人がたのむと、
「今日は満室なので相部屋になりますが、よろしゅうございますか?」
「はい、かまいませんよ」
「そうですか。では」
商人がとおされた部屋には、旅のお坊さんがいました。
商人がお坊さんにあいさつしてから、ふろに入ってくると、お坊さんがお金をかぞえていました。
小判がピカピカと、何枚も光っています。
(ずいぶん持っとるもんじゃのう。あれだけあれば、しばらくは働かなくとも)
商人は、お坊さんの小判がほしくなりました。
そこでその晩おそく、ねしずまったお坊さんを殺して小判をうばうと、宿屋から逃げ出しました。
そして商人は遠くの町へいって、そのお金で店をもちました。
店は繁盛(はんじょう)して、人をやとうほどにまでなりました。
「あんたもそろそろ、お嫁さんをもらってはどうだね」
商人は町の長者にすすめられて、嫁さんをもらいました。
やがて商人と嫁さんの間には、めでたく男の子がうまれました。
けれど男の子は三つになっても、口をきこうとしません。
ところが、しょぼしょぼと雨のふる、ある晩のこと、
「おとう、小便」
と、男の子がはじめてしゃべりました。
商人はよろこんで、
「おう、口をきいた。よしよし、すぐにさせてやろう」
男の子をだきかかえて、かわや(→便所)へつれていきました。
商人が、男の子におしっこをさせようとすると、
「おとう、こんな暗い晩のことだったなあ・・・」
男の子が大人のような声でいって、ゆっくりとふりかえりました。
「なっ、なにを言っているのだ。お前は、・・・あっ!」
男の子の顔を見た商人は、びっくりして声を出せなくなりました。
なんと男の子の顔は、いつの間にか、あのときの旅のお坊さんの顔になっていたのです。
お坊さんの顔をした男の子は、商人をにらみつけると言いました。
「宿屋でわしを殺したのも、こんな晩のことだったなあ。いまこそ、うらみをはらしてやる!」
お坊さんの顔をした男の子は、そのまま商人をさらって、どこへともなくいなくなったそうです。
おしまい
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