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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第70話
油屋の娘
むかしむかし、ある村に、魚釣りの好きな三人の男がいました。
ある日のこと、三人が夜に川で釣りをしていると、川むこうにボーッと赤い火が浮かびあがりました。
「なんだろう?」
三人が不思議に思って見ていると、火はパッと消えてしまいました。
「よし、わしが何の火か調べてやる」
と、三人のうちの一番勇気のある男が、小舟に乗って向こう岸へ渡ってみました。
火の燃えていたあたりに行ってみると、一軒のあばら屋があって、中へ入ってみると美しい娘がたった一人、うつろな目をして座っているのです。
「あの、道に迷って困っておるので、今晩ここへ泊めてくださるまいか?」
男が声をかけると、娘は急にこわい顔で、
「ここは恐ろしい鬼の家です。早く逃げてください!」
と、言うのです。
「いや、そうは言われても・・・」
娘が何を言っても聞かない男に、娘はしかたなく奥の部屋へ案内しました。
そして、
「どんなことがあっても、決してここから出てはなりませぬ。出れば殺されます」
と、言うのです。
さてその晩の事、男が奥の部屋で寝ていると、
「きゃあーー!」
と、いう、女の悲鳴が聞こえてきました。
「何事だ!」
男はとび起きて部屋をとび出そうとした時、娘の言葉を思い出して仕方なくそっと戸を開け、隣の部屋をのぞいてみてびっくり。
何と、大きな赤鬼が燃えさかる火の上で、娘を火あぶりにしているではありませんか。
「むごいことを・・・」
さすがの男も、足がすくんで動けません。
そうするうちに、パッと火が消えて、同時に赤鬼の姿も消えてしまいました。
「だっ、大丈夫か!」
男は娘のそばへかけよって、抱きあげました。
娘はぐったりしていますが、不思議なことに、どこにも火傷をしていなかったのです。
「これは、どうした訳じゃ?」
と、男がたずねると、
「私は大阪の油屋の娘です。父がお客に油の量をごまかして売るために、私は毎晩、こんな目にあわされているのです。お願いです。私の家へ行き、家にある油を全部、高野山のお寺に寄附するよう、父に頼んでください」
そう言うと娘は、証拠の印に自分の片袖をちぎって渡しました。
「よしわかった! 任せておけ!」
男はさっそく、その片袖を持って大阪の娘の家へ行き、主人に事の次第を詳しく話したのです。
ところが主人は、
「そんなばかな、娘は病気で寝ておるのじゃ。とても外へなど、出られるはずがない」
と、信じてくれません。
しかし男の持ってきた片袖は、まぎれもなく娘のものです。
主人は念のために、座敷の布団に寝ている娘の着物を見てみました。
「あっ!」
なんと娘の着物の片袖が、ちぎれてなくなっているではありませんか。
主人はさっそく店の者に命じて、家にある油を全部、高野山のお寺に持っていかせました。
すると不思議なことに、娘の病気はけろりとなおってしまったのです。
「ありがとうございます。おかげで娘が救われました。どうかこの油屋の跡取りとして、これからも娘を守ってください」
喜んだ主人はその男を娘の婿にむかえ、それからはみんな幸せに暮らしました。
おしまい
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