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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第76話
ホタルで敵討ち
むかしむかし、あるところに一人の商人がいました。
この商人はとても商売が上手で、あちこちの村をまわるたびに、大もうけをします。
あるとき、お金のいっぱい詰まった行李(こうり→旅用の荷物入れ)をかついで、町へ品物を仕入れに出かけました。
その途中に立派なお宮があると聞いたので、商人はお参りにいくことにしました。
ところがお宮の近くまできたとき、突然にお腹が痛くなりました。
背中の行李をおろして、その中に入っている腹痛の薬を飲みましたが、痛みはとまりません。
さいわい、近くに小さな茶店があったので、
「すまんが、かわや(→トイレのこと)を貸してくれ」
と、言って、店の裏のトイレへ飛び込みました。
さて、店の主人が行李を動かそうとすると、とても重いのでびっくりです。
(さては、この中に大金が入っているな)
主人は、悪い考えを起こしました。
ちょうどよいことに、店には誰もいません。
(しめしめ、いまのうちに)
主人が行李を開けてみると、思った通り大金がつまっています。
主人は金を取り出して、そのかわりに店の前に転がっている石を拾い集めて行李につめました。
いそいで行李をしばりなおして元の場所へ置いたとき、ちょうど商人が裏口からもどってきました。
「いや、助かった。おかげでお腹が痛いのが治ったよ」
商人はお礼の金をわたすと、行李をかついで茶店を出ていきました。
元気に歩き出した商人は、背中の行李が以前よりも軽くなったことに気づきました。
「まさか!」
商人が行李をおろして中を開けてみると、中からはお金ではなく石が出て来たのです。
「やっぱりそうか。あの茶店の主人がすり替えたに違いない!」
商人は急いで引き返すと、茶店の主人にいいました。
「やいやい! わしの大切な金をとったのは、お前だな!」
「と、とんでもない。親切にかわやを貸してやったのに、変ないいがかりはよしてくれ」
「いいがかりだと! わしがかわやを借りている間に、金と石ころを入れ替えやがって! まあ、だれだって出来心というものはある。だまって返してくれたら、それ以上は何も言わん。だが、あくまで盗ってないと言うのなら、役人のところへ連れて行くまでだ!」
「ふん。証拠もないのに、よくそんな事が言えるもんだ。さあ、商売の邪魔だ。帰ってくれ!」
「いいかげんにしろ、この盗人が! 店を調べればわかるんだぞ!」
商人は、茶店の奥の部屋にあがろうとしました。
奥の部屋には、商人から盗んだ金が置いてあります。
もし見つかったら、言い逃れは出来ません。
(このままでは、金を取り返された上に、わしは役人に捕まってしまう!)
そこで茶店の主人は、そばにあった天秤棒(てんびんぼう)をつかむなり、商人の頭を力一杯打ち付けました。
「ぎゃーーっ!」
主人は倒れた商人を何度も何度も殴りつけて、とうとう殺してしまいました。
それから茶店の裏に大きな穴を掘って、その中へ商人をうめてしまいました。
「やれやれ、これでひと安心」
主人は、ほっと胸をなでおろすと、自分の小さな店をながめました。
「客がいなくて助かったが、このまま客がいないのでは、商売にならん。よし、あの金で店を大きくしよう」
主人はさっそく大工を呼んで、茶店を大きくしてもらいました。
茶店が大きくなると、おもしろいようにお客がふえました。
そこで手伝いの娘を何人かやとうと、かわいい娘がいるというので、茶店はますます大繁盛です。
(これはいい。おれにも運が向いてきたぞ)
さて、商人が殺された次の年の夏。
夜になると茶店のまわりを、たくさんのホタルが飛ぶようになりました。
「ホタルが飛びかう茶店とは、なかなか風流だ」
おかげで茶店は、昼も夜も大にぎわいです。
ところがホタルはどんどん増えていき、客の目や口の中まで飛び込むようになりました。
これでは、風流などと喜んでいられません。
次第にお客たちは気味悪がって、みんな帰ってしまいました。
「なんだなんだ? いったいこのホタルは、どこからやってくるのだ?」
主人が不思議に思って調べてみると、なんと商人をうめた土の中からわき出ているのです。
「よわったな」
まさか地面を掘り返すわけにもいかないので、主人はお湯をわかして、それを土にかけてホタルを殺そうとしました。
ジョボジョボジョボ。
すると怒ったホタルたちは、次々と主人の体にとまりはじめ、主人の目も口も鼻も耳も、小さな体でふさいでしまったのです。
「た、助けてくれ・・・」
そして主人は、息が出来ずに死んでしまったのです。
おしまい
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