福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第114話
うたよみゆうれい
むかしむかし、あるところに、空家がありました。
「空家のままでは、もったいない」
大家さんが、《貸し家(かしや)》のふだをはると、すぐにかりる人がみつかりました。
ところが二、三日すると、大家さんにあいさつもなく、かりた人がでていってしまいました。
また、空家です。
大家さんがあらためて、《貸し家》のふだをはると、今度もすぐに、かりる人がみつかりました。
ところがまた、二、三日もすると、かりた人が、だまってでていってしまいました。
こうしたことが、何度もくりかえされるので、
「いったい、どうしたわけだろう?」
大家さんがくびをひねっていると、
「なんだ。大家さんのくせに、しらないのかい。毎晩、ゆうれいがでるってうわさだよ」
通りがかりの人が、教えてくれました。
うわさは、町中にひろがりました。
こうなると、かりる人もいません。
大家さんがこまっていると、町で一番どきょうのいい男がやってきて、
「おれが、ゆうれいをみとどけてやろう」
と、空家にとまることにしました。
男がざしきのものかげにかくれて、ゆうれいがあらわれるのをまっていると、家のおくのほうからミシッ、ミシッ。
あやしげなもの音がしたかとおもうと、長い髪をみだした女のゆうれいがあらわれて、いろりのふちにすわりました。
ゆうれいは、いろりの灰をかきまぜながら、
♪かきまぜる灰は
♪はまべのいろににて
と、いって、なきだしました。
それを、何度もくりかえすので、ものかげの男は、
(これはきっと、歌の後ろ半分ができないために、毎晩でてくるのだろう)
と、かんがえました。
そこで、ゆうれいがまた、
♪かきまぜる灰は
♪はまべのいろににて
と、いったときに、すかさず、
♪ゆるりが海か ※
♪おきのみゆるに ※
歌の後ろ半分を、いってやりました。
すると、ゆうれいは、あんしんしたらしく、
「いいうたができて、これでもう、心残りはありません。どうもありがとうございました」
お礼をいってきえ、二度とあらわれなかったそうです。
※ゆるりは、いろりの事。
※おきは、海のおきと、いろりのおき火をひっかけたことば。
おしまい
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