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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)

百物語 第116話

とっつくひっつく

とっつくひっつく

 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
 ある日、おじいさんはとおくの畑へいったのに、大事な弁当をわすれてしまいました。
 そこで、おばあさんが後から弁当を持って出かけていくと、とちゅうのくらい森で、
「とっつくぞう〜、ひっつくぞう〜」
と、おそろしい声がきこえてきました。
 おそろしくなって、かけだしたおばあさんは、ようやくおじいさんの畑にたどりつくと、そのことを話しました。
「帰りもおなじところを、とおらないといけないし、こまったことじゃ」
 おばあさんがいうと、
「その声がしたら、『とっつくなら、とっつけ。ひっつくなら、ひっつけ』と、いってみたらどうじゃ」
 おじいさんがいったので、おばあさんもしょうちして、かえっていきました。
 するとやっぱり、
「とっつくぞう〜、ひっつくぞう〜」
と、おそろしい声。
「とっつくなら、とっつけ! ひっつくなら、ひっつけ!」
 おばあさんがおもいきってさけぶと、どこからともなく小判がとんできて、ピタピタとからだにひっつきました。
 おばあさんがこしをぬかしていると、心配したおじいさんがかけつけてきました。
 二人はおばあさんにひっついた小判のおかげで、たいしたお金持ちになりました。
 すると、となりのよくばりばあさんが、
「どうして、こんな金持ちになったか、教えろやい!」
と、やってきたので、ありのままに教えると、さっそく次の日に、おなじことをまねしてみました。
 ばあさんはじいさんに、わざと弁当をわすれさせて、とおくの畑へいかせました。
 そして、じいさんのところへ弁当を持っていくと、そのかえりにやっぱり、
「とっつくぞう〜、ひっつくぞう〜」
 へんな声が、きこえてきました。
 ばあさんがよろこんで、
「とっつくなら、とっつけ。ひっつくなら、ひっつけ。うんとひっつけ」
と、さけぶと、松ヤニのかたまりが、どこからともなくとんできて、からだじゅうがベタベタです。
「小判をかついでかえろう」
 たのしみにやってきたじいさんも、松ヤニを小判とまちがえて、ばあさんにさわったものですから、二人はくっついたきりはなれなくて、どうにもこうにもこまったそうです。

おしまい

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