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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第118話
宝化け物
むかしむかし、あるところにさむらいがいました。
「ほうぼうの国をめぐって、剣の腕前をみがこう」
と、旅に出たものの、さいふはたちまちすっからかんで、宿にとまる金もありません。
「どこぞ、空家はないか?」
と、さがしていると、町なかに、たいそう立派な空家が見つかりました。
近所の人に、
「とまってもかまわんか?」
と、たずねますと、
「化け物が出るっちゅううわさですが、それでもいいなら、おとまりなさい」
と、いう返事です。
「ほほう、化け物が出るとは、おもしろい。腕試しに、せっしゃが退治してくれるわ」
さむらいは、よろこんでとまることにしました。
さて、その日の真夜中。
さむらいがウトウトしていると、床下から、黄色い着物をきた人が音もなくあらわれ、あれはてたにわにむかって、
「さいわい、さいわい、さいわい」
と、よびました。
すると、にわのほうから、
「へーい」
茶色の着物の人が出てきて、なにやら、ひとことふたことかわしたかと思うと、二人とも、フッときえてしまいました。
(なんだつまらん。これだけのことか)
さむらいがガッカリしていると、こんどは白っぽい着物の人があらわれ、やっぱり、にわのほうにむかって、
「さいわい、さいわい、さいわい」
と、よびました。
すると、にわのほうから、
「へーい」
さっきの茶色の着物の人が出てきて、ふたことみことかわしたかとおもうと、二人とも、フッときえてしまいました。
そしてこんどは、赤い着物をきた人があらわれ、やっぱり、にわのほうにむかって、
「さいわい、さいわい、さいわい」
と、よびました。
すると、にわのほうから、
「へーい」
またまた、さっきの茶色の着物の人が出てきて、みことよことかわしたかとおもうと、二人とも、フッときえてしまいました。
そして、そのまましずまりかえって、物音ひとつしません。
そこでさむらいは、
「こんどは、せっしゃがやってみよう」
と、あれはてたにわにむかって、よんでみました。
「さいわい、さいわい、さいわい」
すると、こわれた石どうろうのかげから、
「へーい」
茶色の着物の人が出てきたので、さむらいは、そのえりくびをギュッとつかみあげ、
「さっきから、えたいのしれないやつらが、かわるがわる、おまえをよびだして、ヒソヒソとしゃべっておったが、いったいなにものだ?」
「へい、よくぞきいてくだされた。この空家はむかし、たいへんはんじょうしたお店のだんなの家でした。床下には、お宝がドッサリ、つぼに入れられたまま、うずめられてましてな、そりゃあもう、くるしくてなりません。黄色い着物の人は、金の精。白い着物の人は、白銀の精。赤い着物の人は、あかがね(→銅)の精でございます。精たちは、夜な夜なあらわれ、『だれかきてくれんものか?』と、わしにきくのです」
「なるほど。そういうおまえはだれだ?」
「つぼの精にございますだ」
「よし、あとはせっしゃがひきうけた。お宝の精にいうておけ。もうじき、地べたから出して、らくにしてやるからとな」
あくる朝、近所の人たちがさむらいの身を心配して空家をのぞくと、さむらいは床をはがして、せっせと何やらほりだしていました。
「いいところにきた。おまえらも手伝ってくれ」
みんなで床下をほってみたら、でてくるでてくる。
大きなつぼに、金、銀、銅のお金がいっぱいです。
さむらいは旅をやめて、この家のあるじになって、のんびりくらしたということです。
おしまい
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