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百物語 第121話

よっぱらいのばけものたいじ

よっぱらいのばけものたいじ

 むかし、酒のみのさむらいが、酒のうえのしっぱいから、浪人(ろうにん→詳細)になってしまいました。
「どこかに、つとめ先がないかなあ」
 浪人が京の町をあるいていくと、たてふだのまわりに人だかりがしています。
 なんだろうと、のぞいてみると、
《三十三間堂(さんじゅうさんげんどう)のばけものをたいじしたものには、のぞみのほうびをとらせる》
と、かかれています。
 浪人はさっそく、御所(ごしょ→天皇のいるところ)へでかけ、役人にいいました。
「ばけものをたいじしてきますから、酒をかう金をかしてください」
 こうして酒を手に入れた浪人が、三十三間堂のかたすみでよっぱらっていると、ま夜中に、ものすごい足音がして、ヒゲモジャの三つ目大入道が現れました。
「おい、おきろ!」
 浪人を、ひとつかみにしようとしましたが、浪人はよっぱらっているので、おそろしくもなんともありません。
「これはこれは、ばけものさまでございますか。まずは、はじめまして」
 おどけたちょうしで、あいさつしました。
「ほほう、おまえのようなかわりものは、はじめてじゃ。・・・ああ、はじめまして。して、ここへ、なにをしにきた」
「ばけものさまは、聞いたところによりますと、たいそうのばけじょうずとか、せけんでは、もっぱらのひょうばんです。そこで、そのばけっぷりを、とくとはいけんしたいと思い、ここでおまちしておりました」
 浪人におだてられて、ばけものは、わるい気がしません。
「そうか、それほど有名なのか。オホン。では、ちょいとみせてやるか。いくぞ!」
 まずは、きれいなお姫さまにばけました。
「おおっ、さすがは、ばけものさま。天下一のばけっぷり」
 浪人のおだてに、気をよくしたばけものは、「トラ」、「カッパ」、「りゅう」、「赤鬼」など、つぎつぎに化けて見せました。
「いや、これはおみごと! うわさにまさるばけっぷりですな。しかし、さすがのあなたさまも、小さなウメボシには、ばけられないでしょうな」
「なにをいうか、みておれ」
 ばけものはひとつぶのウメボシに、ばけてみせました。
「おおっ、うまそうだ。酒のあてには、これが一番」
と、いうと、浪人はそのウメボシをペロリと食べてしまいました。

おしまい

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