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百物語 第123話

空き家でおどるネコ

空き家でおどるネコ

 むかしむかし、ある家に一匹のネコが飼われていました。
 みんなからかわいがられ、まるで人間みたいにいばっていましたが、年をとってヒゲは白くなり、一日中いねむりばかりしています。
 ところが、いつのころからか、夜になると家をぬけだし、朝までもどってこないことが多くなりました。
(はて、いったい、どこへ行くのだろう?)
 ふしぎに思ったおやじさんが、ある晩、こっそりネコの後をつけてみました。
 そんなこととは知らないネコは、後をふり向きもせず、ドンドン歩いていき、村はずれの一軒家へ入っていきました。
 その家は、ずっと前から空き家になっていて、手入れをする者もいないため、まるでお化け屋敷のようです。
(はて、こんな家にいったい、なんの用があるのか)
 おやじさんが、破れたしょうじの穴から中をのぞいてみると、明かりもないのに、部屋の中がハッキリと見えます。
 壁には古蓑(ふるみの→わらなどをあんでつくった雨カッパ)や古笠(ふるがさ→雨をさけるためのぼうし)がかけてあり、ほころびたたたみの上には、古ザルや茶がまや、お酒を入れるとっくりがころがっています。
と、ふいにどこからともなく、にぎやかな三味線(しゃみせん→詳細)の音が聞こえてきました。
 そのとたん、古蓑や古笠が、ひとりでに壁からはなれて、ピョンピョンとおどりはじめたのです。
 そればかりか、古ザルや茶がまやとっくりまでが、フワリと浮きあがり、三味線の音にあわせておどります。
 おやじさんはビックリして、
(おらの家のネコはどこへ行った?)
と、目でさがしてみたら、なんと古だなの上にいて、足をあげたりさげたり。
 そのうちに、大きな声で、
♪古みの、古がさ、よいこらしょ。
♪古ザル、茶がまに、とっくりこ。
♪それ、スチャラカ、チャンチャン。
と、歌いだしました。
 その、にぎやかで楽しいこと。
 おやじさんも、ついにがまんできなくなり、
♪古みの、古がさ、よいこらしょ。
♪古ザル、茶がまに、とっくりこ。
♪それ、スチャラカ、チャンチャン。
と、歌いながら、その部屋に入っていき、そこに落ちていたしゃもじを持って踊りはじめました。
 すると、古だなの上にいたネコが、ビックリした顔でとびおり、外へとび出していきます。
 同時に道具たちも踊りをやめ、見る見る部屋の中が暗くなりました。
 おやじさんは急にこわくなり、しゃもじを持ったまま外へ出て、そのまま後も見ずにかけだしました。
 無事に家へもどって、ネコが帰るのを、いまかいまかと待っていましたが、それっきりネコは帰ってこなかったそうです。

おしまい

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