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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第128話
ひとをおそうキノコ
むかしむかし、ある山のなかに古いやしろがありました。
なんでも、やしろのまわりには、おいしいキノコがはえているというので、まい年秋になると、近くの村びとたちがキノコとりにでかけます。
ある年のこと、キノコとりにでかけた男が、夜になっても、もどってきませんでした。
村びとたちがしんぱいして、つぎの日の朝早く山のなかへいきましたが、どこへきえたのか、男の持ちものひとつのこっていません。
「神かくしにでも、あったのだろうか?」
「いや、そんなはずはない」
村びとたちは、やしろのなかまで、ていねいにさがしてみました。
それでも、まるで人のいる様子はありません。
ところが、しばらくたって、キノコとりにいった老婆(ろうば)が、またもゆくえふめいになりました。
おまけに、その老婆をさがしにいった嫁さんまでも、もどってこないというのです。
こんどは村じゅうそうでで、やしろの近くばかりでなく、山のなかのあちこちをさがしてみましたが、ついにみつけだすことができませんでした。
そんなことがあってから、この山のなかへキノコとりにいくものは、ひとりもいなくなりました。
さて、ふもとの村に、近所でもひょうばんのきもっ玉の太いわかものがいました。
わかものは、
「いまどき、神かくしなんてばかなことがあるものか。もしかして、かいぶつがかくれているのかもしれない。よし、わしが正体をみとどけてやる」
と、いって、ひとりで山へでかけていきました。
ついでに、だれもとりにいかないキノコを、ドッサリととってこようとおもいました。
やしろのそばにくると、おいしいキノコが、あちこちにはえています。
わかものはむちゅうになってキノコをとり、カゴのなかに入れました。
それでも、ときどき手をとめて、あたりのようすをさぐってみましたが、かいぶつらしいものはどこにもいません。
(よし、こん夜はここのやしろにとまってみよう。きっとかいぶつがあらわれるにちがいない)
わかものはやしろのなかに入ると、ゆかの上へ大の字になりました。
そのうち、ねむたくなってウトウトしていたら、だれかが足をひっぱります。
「だれだ!」
わかものが、ハッと目をあけると、なんと、ゆかの上に人間の手のような大きなキノコがはえていて、足をひっぱっているのです。
(まさか、キノコがひとをひっぱるなんて)
さすがのわかものもビックリして、おばけキノコをにらみつけました。
すると、おばけキノコはゆかのやぶれから下へ、スルスルと、ひっこんでしまいました。
「待てえ!」
わかものはゆか板をはがして、下へとびおりました。
明りをつけて、くらいゆか下をてらしてみるとどうでしょう。
あちこちにひとの骨がちらばっていて、さっきのおばけキノコが、のびたりちぢんだりして、ゆらゆらゆれています。
(さては、このおばけキノコが、キノコとりのひとをおそったな)
わかものは、ゆか下にころがっていたぼうきれをひろうなり、おばけキノコのかさをなぐりつけました。
ところがふしぎなことに、キノコのかさがこわれても、あっというまに新しいかさができて、おまけに胴のぶぶんがグングンとのびてきて、わかもののからだにまきつこうとします。
そのとき、わかものは「キノコはみそ汁によわい」と、いう、年よりのことばをおもいだしました。
わかものはゆかのはしをつかんで上へあがると、やしろをとびだし、大いそぎで家にもどりました。
それからなべにたっぷり水とみそをいれ、ぐらぐら煮たてました。
あついみそ汁ができあがると、しっかりとふたをして、なべごと山へはこんでいきました。
やしろのなかへ入ると、おばけキノコはゆかの上までのびていて、ゆっくりかさを動かしています。
「これでもくらえ!」
わかものはなべのふたをとるなり、あついみそ汁を、おばけキノコにかけました。
すると、おばけキノコは、みるみるちぢまっていき、ついになくなってしまいました。
「やれやれ。これで、もう二どとひとをおそうことはあるまい」
わかものは村へもどると、みんなにおばけキノコのことをはなしました。
みんなはビックリするやらふしぎがるやら、さっそくなくなったひとの骨を村へはこんで、ねんごろにとむらってあげたそうです。
おしまい
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