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百物語 第130話

おばあさんにばけた古オオカミ

おばあさんにばけた古オオカミ

 むかしむかし、ひとりの飛脚(ひきゃく→詳細)が、あるとうげにさしかかりました。
 そろそろ暗くなりかけていましたが、旅にはなれていたので、今夜はとうげで野宿(のじゅく)をして、あすの朝早くむこうの村へおりようと、すたすた山道をのぼっていました。
 とうげへでて、あたりをみまわすと、少しさきのほうに大きな木があります。
「よし、あの木の上がいい。あそこなら、オオカミ(→詳細)に食われることもなし、ねごこちもよさそうだ」
 飛脚は荷物になわをつけて、そのなわのはしをこしにゆわえると、木をスルスルとよじのぼっていきました。
 大きなえだにこしをおろすと、なわをひっぱって荷物をひきあげました。
 月のない暗いばんで、もの音ひとつありません。
 飛脚は、いつのまにかグッスリとねこんでしまいましたが、なにかもの音がしたような気がして、ふと目をさまします。
 ジッと耳をすましていると、なにやら木の根もとのあたりで、ザワザワしたけはいがあります。
 よくみてみると、そこにはひかった目が、なん百とうごめいていました。
「オオカミだ!」
 飛脚は、ゾゾゾッと、せすじが寒くなった。
 やがてオオカミたちは、木の根もとをとりかこむと、一ぴきのオオカミが、ヒョイと、べつのオオカミのかた車にのりました。
 また一ぴき、また一ぴき。
 ヒョイヒョイヒョイと、オオカミがつぎからつぎへとかた車をして、上へ上へとのぼってきます。
「これがうわさにきく、オオカミばしごっちゅうもんか」
 飛脚はもう、生きたここちがしません。
 だんだん、だんだん、オオカミが飛脚のいるえだへ近づいてきます。
 ところが、もうちょっとのところで、オオカミの数がつきてしまいました。
「こりゃ、あかん」
 一番上のオオカミがいいました。
「だれか、七兵衛(しちべえ)のとこのおばばをよんでこい」
 一ぴきのオオカミが、いそいで村のほうへ走っていきました。
「なに? 七兵衛とこのおばばだと。あのおばばとオオカミと、なんのつながりがあるだ?」
 飛脚は首をかしげました。
 しばらくすると、まだらの毛なみをした大きな古オオカミがやってきました。
「これが、七兵衛とこのおばばか。どうもわからん」
 飛脚がかんがえこんでいると、古オオカミは、
「よーし、わしがのぼっていって人間を食ってやる」
と、いいながら、ガサガサ、ゴソゴソとオオカミばしごをのぼりはじめました。
 飛脚のいるえだに、古オオカミの前足がかかりました。
 そして、もうかたほうの足をのばして、飛脚の着物のすそをつかもうとします。
 そのとき、飛脚はむがむちゅうで、ふところに入れていた短刀をぬくと、いきなり古オオカミのかた足にきりつけました。
「ギャーーーッ!」
 ひめいとともに、古オオカミが地面へ落ちました。
と、どうじに、オオカミばしごが、
 ドドドドドー!
と、地ひびきたててくずれ落ち、起き上がったオオカミたちは、バラバラに逃げていきました。
 やがて、長い夜がやっと明けました。
 飛脚は木からおりると、七兵衛の家をたずねました。
「どうだ、ばあさまはたっしゃか?」
「うん、元気は元気なけど、ゆうべ手をけがしてなあ。おくにねてるわ」
と、いいました。
「そうか、じゃあちょっと、ばあさまをみまうか」
 飛脚がおくのへやへいってみると、
「いたい、いたい」
と、おばあさんがうなりながらねています。
「どうした、ばあさま」
 飛脚がきくと、
「ゆうべ夜中にしょうべんにいって、つまずいてころんで、手をけがしてしもうたんや。ほいでねとるんや」
 おばあさんは、むこうをむいたまんまでこたえます。
 飛脚は、これはゆうべの古オオカミにちがいないとおもいました。
「よし、ばけの皮をひんむいてやろ!」
 飛脚はいきなりふところから短刀をぬくと、おばあさんの首へグサリとつきさしました。
「ギャーーーッ!」
 おばあさんは、ひめいといっしょにてんじょうまでとびあがると、一ぴきの大きなまだらの古オオカミとなって、ドサッと落ちてきました。
「やっぱり」
 もの音にビックリしてかけこんできた家の人たちに、飛脚はゆうべのとうげのできごとをはなしてきかせました。
 七兵衛のおばあさんを、この古オオカミが食い殺して、そしておばあさんにばけていたというわけです。

おしまい

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