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百物語 第142話

しかられたゆうれい

しかられたゆうれい

 あるとき、さむらいのおくさんが、あの世へたびだっていきました。
 このおくさんは、生きているときは口やかましくて、さむらいにもんくばかりいっていましたから、
「やれやれ、これで、しずかになったわい」
 さむらいは、悲しさよりも、ホッとしていました。
 ところがまもなく、おくさんのゆうれいがまいばんあらわれて、『ああでもない、こうでもない』と、もんくをいうのです。
 とうとうさむらいは、びょうきになってしまいました。
 そこで、なかまのさむらいたちが、
「ゆうれいを、おいはらってやろう」
と、かわるがわる、とまりにきてくれましたが、ゆうれいのあまりのおそろしさに、たじたじとなって、にげだしてしまいます。
 さむらいのびょうきは、おもくなるばかりでした。
 この話をきいて、
「よし、わしが、なんとかしよう」
 としよりのさむらいが、きてくれました。
 草木もねむるうしみつどき(午前二時ごろ)です。
「うらめしやあー」
 びょうきでねているさむらいのまくらもとに、おくさんのゆうれいがあらわれ、またまたもんくをいいはじめました。
「だいたい、あのときあんたが・・・。それから、あれがこうで・・・」
 としよりのさむらいは、だまってきいていましたが、ついにたまりかねて、
「だまりなさい! あなたは、さむらいのおくさんでありながら、なんとけしからんのだ! やることがひきょうですぞ。そんななさけないすがたを、人にみせるものではありません。死はしんせいな物であり、さむらいの美徳(びとく→ほめるべき、立派なこと)です。つつしみなさい!」
と、きびしくしかってやりました。
 するとゆうれいは、きまりがわるそうに、すがたをけして、それっきりあらわれませんでした。
 びょうきのさむらいは、やがてあの世へいきましたが、ゆうれいをおいかえしたとしよりのさむらいには、なんのたたりもなかったそうです。

おしまい

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