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百物語 第144話

おんぼろ寺のカニもんどう

おんぼろ寺のカニもんどう

おりがみをつくろう ( おりがみくらぶ より)
蟹の折り紙かに@    蟹Aの折り紙かにA

 むかしむかし、ある村のはずれに、和尚(おしょう→詳細)さんのいないオンボロのあき寺がありました。
 いつまでもあき寺ではこまるので、
「よその村から、和尚さんをたのもう」
 村の人たちは、これまでになんどか、あたらしい和尚さんにきてもらいました。
 けれど、どの和尚さんも、その夜のうちにばけものにおそわれて、つぎの朝にはもう、くいころされてしまっているのです。
 もう、いく人の和尚さんが、ばけものにくわれたことか。
 村の人たちは、あたらしい和尚さんをたのむにたのめなくて、あきらめていました。
 ですから、寺はあれほうだいにあれはてています。
 ある日の夕方、この村に、たびの坊さんがやってきて、一けんの家の戸をたたきました。
「どうか、ひとばん、とめてもらえんだろうか?」
 坊さんは、たのみましたが、
「あいにくと、家はせまくておとめできねえが、このさきにあき寺があるで、そこにとまったらどうだべ」
 村の人にこういわれて、坊さんはあき寺にとまることにしました。
 いってみると、これがひどいあれ寺です。
 ですが、坊さんは、
「夜つゆがしのげるだけでも、ありがたい」
と、本堂にすわって、まずは、おきょうをあげはじめました。
 するとなにやら、あやしいけはいがします。
 風もないのに、ローソクの火がユラユラとゆれ、本堂の阿弥陀(あみだ→詳細)さまが、おそろしげなかおになりました。
 あみださまは、顔をまっ赤にして、大きな目の玉をグルグルとうごかしながら、
「よくきたな。グフフフフッ」
と、坊さんをにらみつけます。
(この寺に住みついている、ばけものだな。まあ、ほっておこう)
 たびの坊さんが、さらにおきょうをあげていると、黒いはかまの小坊主があらわれて、
「おまえと問答(もんどう)をしたい。こたえられねば、とってくうが、いいか」
と、ききました。
(やれやれ、しかたがない。あいてをしてやるか)
 坊さんはおきょうをやめると、小坊主にいいました。
「いいだろう。問答をしてやろう」
「では、いくぞ。大足二足(たいそくにそく)、両足八足(りょうそくはっそく)、二眼天眼通(にがんてんがんつう)にして、色紅(いろべに)とは、これいかに?」
「アハハハハハッ。これはたやすいもんどうだ。足の数でわかった。それは、カニだ!」
 たびの坊さんがどなると、
「ギャアアーッ!」
とたんに、なにやらさけびこえがあがって、あとはシーンと、しずまりかえりました。
 小坊主もきえ、阿弥陀さまも、いつものおだやかな顔にもどっていました。
 つぎの朝、村の人たちが、
「ゆうべの坊さまも、ばけものにくわれてしまったべ。気のどくなことしたなあ」
と、あき寺にやってくると、たびの坊さんは、本堂のそうじをしています。
「あんれ? ばけものは、でなかったかね?」
「いや、でることはでたが、問答をといて、どなりつけたら、どこかへきえたようじゃ。いま、そうじをしながらさがしているところだ。すまんが、てつだってくれんか?」
 みんなでさがしまわると、お寺のえんの下に、大きなカニが死んでいました。
 たびの坊さんは、カニのばけものにころされた、これまでの和尚さんたちをねんごろにとむらって、この寺の和尚さんになりました。

おしまい

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