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百物語 第150話

カッパのねんぐ

カッパのねんぐ

 むかしむかし、船頭(せんどう→船で人や荷物を運ぶ人)さんが、いい気持ちで舟をこいで川をくだっていました。
 すると、
「船頭さん、船頭さん」
と、岸のほうから、声をかけたものがあります。
 ヒョイとそっちを見ると、かみしもすがたの、りっぱな男が岸に立っていました。
「船頭さん。どちらまでおいでですか」
「へえ。清河橋(きよかわばし)までいくんですが、なにか、ご用ですかい?」
「それはありがたい。じつは、このタルを河橋のたもとにある問屋(とんや)まで、とどけていただけませんか。受け人は、この手紙に書いてあります。おたのみします」
「へえ。どうせついでですわい。ひきうけやしょう」
 舟を岸につけると、その男は手紙を船頭さんにわたして、
「では、このタルを」
と、そばにある大きなタルを指さしました。
 そして船頭さんに、お金をわたしていいました。
「ただ、くれぐれもいうておきますが、このタルは、けっしてあけんようにしてください」
「へえ」
「どんなことがあっても、あけんようにですぞ。よろしいですな」
「へえ。しょうちしやした」
 船頭さんは、思いがけない大金をもらったので、上きげんです。
 大きなタルを舟につむと、また川をくだっていきました。
 ところが、しばらくいくうちに船頭さんは、
「あのお方は、このタルをあけるなあけるなと、いやにねんをおしとったが」
と、タルのことが気になってきました。
「まさか、死体でも入っているのではあるまいな」
 どうにも気になって、
「ええ、くそっ。ままよ」
 船頭さんは、思いきってタルのふたをあけてみました。
「??? ・・・こりゃあ、きみょうなもんじゃ」
 タルの中には、いままで見たこともない、どす黒いものが、いっぱいにつまっています。
「なんじゃろう?」
 さわってみたり、においをかいでみたりしましたが、いっこうにけんとうがつきません。
「おお、そうそう」
 船頭さんは、タルといっしょにわたされた手紙のことを思いだして、さっそくよんでみました。
 そこには、
《カッパ(→詳細)の王さまへ。いつもいつも、われわれ臣下(しんか→けらい)のものをおまもりくださいまして、みなみな、心から感謝いたしております。さっそくながら、ことしのねんぐをおおさめもうします。なお、ひとこともうしそえますが、ことしは人間どもがわれわれを用心すること、いままでになくきびしく、そのためにきもが九十九しかとれませんでした。まことにもうしわけないことですが、のこる一つは、この船頭のものをさしあげます。どうぞ、ごえんりょなくおとりくださるよう、つつしんでおねがいもうしあげます》
 これをよんだ船頭さんは、カンカンにおこって、
「人間さまのきもをねんぐにとるとは、なんちゅうこっちゃ。えーいっ!」
 その大タルをかかえあげると、川の中へドボーンと、ほうりこんでしまいました。
 そしてまた、何事もなかったかのように、舟をこいでいきました。

おしまい

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