福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第162話
鬼がっ原の一つ目(→詳細)
むかしむかし、でっち(→住み込みではたらく子供)の長吉(ちょうきち)が、鬼がっ原のむこうまで、つかいにいくことになりました。
鬼がっ原は、ばけものがでるとひょうばんの原っぱです。
長吉は、重いふろしきつつみをしょってでかけましたが、日はくれかかってくるし、なにやら心細くてたまりません。
すると、
ピタピタッ、ピタピタッ
うしろから、きみょうな音がきこえてきました。
長吉が足を止めると、一ぴきのイヌが、足もとを走りぬけていきました。
(なんだ。イヌか)
イヌは、むこうの大きな柳(やなぎ)の木のところまでいくと、きゅうにとまりました。
ちっとも気がつきませんでしたが、前から、きれいな着物をきた小さな女の子が歩いてきます。
イヌは、しきりにその女の子の足のまわりをうろつきます。
「しっ! しっ!」
女の子がいくら追っても、イヌはしつこくかぎまわって、そばをはなれません。
そのうちに、
ウウッー! ウウッー!
イヌは、うなり声をあげました。
女の子が、おびえたように立ちどまると、イヌは前にまわって、はげしくほえつきました。
女の子はこわくなって、とうとう、泣きだしてしまいました。
(おやおや、かわいそうに)
長吉は、いそいで近づくと、持っていたかさをふりあげて、イヌを追い払いました。
イヌはビックリしたようにとびのくと、長吉をジッとみつめていましたが、どこかへいってしまいました。
「ありがとう」
女の子が、すこしふるえた声で礼をいいました。
だいぶ暗くなっていたので、女の子のかおはよく見えませんが、とうふをのせたおぼんを大事にかかえています。
「たったひとりで、鬼がっ原のとうふ屋まで、いってきたのかい?」
聞くと、女の子はコクンとうなずきます。
(まだ小さいのに、かんしんなもんだ。この原っぱには、おばけがでるというのに)
長吉は心の中でつぶやいて、女の子のうしろを歩きました。
やがて雨がふってきたので、長吉はかさをひらくと、女の子にさしかけてやりました。
「うちは、どこなの?」
「あの橋の、すぐむこう」
「じゃあ、おんなじ方角だ。いっしょにいこう」
橋をわたり、竹やぶへ入ると、わらぶきの小さな家がありました。
女の子の家です。
「じゃ、さようなら」
長吉がいうと、女の子も、
「さようなら」
そういって、顔をあげました。
「あっ!」
なんとその顔には、ひたいのまん中に、大きな目が一つあるだけでした。
おしまい
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