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百物語 第166話

なぞなぞばけもの

なぞなぞばけもの

 むかし、たびの坊さんが、山のふもとの村にやってきました。
 日がくれたので、
「どうか、こんやひとばん、とめてくださらんか?」
と、たのんでまわりましたが、どこの家もとめてくれません。
 お寺はないかときくと、
「あるにはあるが、夜になると、なぞなぞをかけるばけものがあらわれ、なぞがとけんと、いのちをとられてしまう。いままで、なん人の和尚(おしょう→詳細)がころされたかわからん」
 ところが、たびの坊さんは、
「わしは、なぞなぞが大すきなのじゃ。ばけもののなぞなぞをといて、しょうたいをみやぶってやろう」
と、村のうら山にある、あれはてた、オンボロ寺へむかいました。
 さて、そのばん。
 坊さんが、お経をとなえていると、なまぐさい風がふいてきて、やぶれしょうじのそとに、顔の長いばけもののかげがうつりました。
 そして、こういったのです。
「木へんに春の、ていてい小法師(こぼうし)はおるか?」
「そんなものは、おらん。おまえは、だれじゃ?」
「トウヤのバズ。わしのしょうたいをあててみい」
「かんたん、かんたん。トウヤは、東の野原、バズは、ウマの頭。つまり、東野の馬頭。おまえは東の野原でしんだ、馬の頭のばけものだろう。こわくないぞ。ひっこめ!」
 坊さんにいいあてられたばけものは、
「ヒェーン!」
と、にげかえっていきました。
 しばらくすると、また、なまぐさい風がふいてきて、やぶれしょうじのそとに、りっぱなひげをはやした、ばけもののかげがうつりました。
 そしてまた、
「木へんに春の、ていてい小法師はおるか?」
「そんなものは、おらん。おまえは、だれじゃ?」
「ナンチのダイリ。わしのしょうたいをあててみい」
「かんたん、かんたん。ナンチは南の池、ダイリは大きな鯉。つまり、南池の大鯉。おまえは南の池でしんだ、大鯉のばけものだろう。こわくないぞ。ひっこめ!」
 坊さんにいいあてられたばけものは、
「ヒェーン!」
と、にげかえっていきました。
 しばらくすると、またまた、なまぐさい風がふいてきて、
 やぶれしょうじのそとに、とさかのある、ばけものがうつりました。
「木へんに春の、ていてい小法師はおるか?」
「そんなものは、おらん。おまえは、だれじゃ?」
「サイチクリンのヘンソクケイ。わしのしょうたいをあててみい」
 こんどはちょっと、むずかしいなぞなぞでしたが、坊さんはあわてません。
「サイチクリンは西の竹の林、ヘンソクとは一本足、ケイは鶏(ニワトリ)。つまり、西竹林の片足鶏。おまえは西の竹やぶでしんだ、一本足のニワトリのばけものだろう。こわくないぞ。ひっこめ!」
 坊さんにいいあてられたばけものは、
「ヒェーン!」
と、にげかえっていきました。
 しばらくすると、またまた、なまぐさい風がふいてきて、
 やぶれしょうじのそとに、りっぱなツノをはやした、ばけもののかげがうつりました。
「木へんに春の、ていてい小法師はおるか?」
「そんなものは、おらん。おまえは、だれじゃ?」
「ホクソウレイバのロウギュウズ。わしのしょうたいをあててみい」
「なんだ、つまらん。ホクソウレイバとは、北の葬礼場(そうれいば→おはか)。ロウギュウズは、年をとってしんだ、ウシの頭のばけもの。つまり北葬礼場の老牛頭。おまえは北の葬礼場でしんだ、年寄りの牛の頭のばけものだろう。こわくないぞ。ひっこめ!」
 坊さんに、あてられたばけものは、
「ヒェーン!」
と、にげかえっていきました。
「これで、東西南北のばけものがでつくしたから、ねるとするか」
 坊さんが、ひじまくらでゴロリとよこになると、こんどはゆかしたから、なまぐさい風がふいてきて、
「やい、ぼうず。よくも、わしらばけものなかまのしょうたいをみやぶって、おいかえしたな!」
 頭の大きなばけものが、あらわれでました。
「おまえは、だれじゃ?」
「木へんに春のていてい小法師とは、わしのこと。しょうたいをあててみい」
「かんたん、かんたん。木へんに春とかけば、『椿(つばき)』。ていてい小法師とは、わらをたたく木づちのべつ名。つまり、椿の木でつくられた、木づちのばけものだろう。えーい、こわくないぞ。ひっこめ!」
 坊さんにいいあてられたばけものは、これまた、
「ヒェーン!」
と、にげかえっていきました。
 それっきり、ばけものはあらわれません。
 坊さんは朝まで、グッスリとねむりました。
 一夜あけて、坊さんがかねをつくと、村の人たちがおそるおそる集まってきました。
「ようこそ、こぶじでしたなあ。ばけものたちがあらわれでたでしょう」
「でたとも。東の野原でしんだウマの頭や、南の池でしんだ鯉や、西の竹やぶでしんだ一本足のニワトリや、北のおはかのそばでしんだウシの頭のばけものが、この寺のゆかしたにすむ、椿の木づちにあいにきたところを、すべて、しょうたいをみやぶって、おいかえした。さあ、それらをのこらずひろいあつめて、ねんごろにとむらってやるとしよう」
 坊さんは、そういって、ゆか板をはがしとりました。
 すると、このお寺をつくるときにつかわれたきり、ゆかしたにおきわすれられていた、椿の木でできた木づちがでてきました。
 人につかわれていたどうぐは、わすれさられたままだと、ばけものになることがあるのです。
 だれにもとむらわれることなく、しんだままのウシやウマや魚やニワトリもおなじです。
 坊さんは、ばけものになったそれらのほねをひろいあつめると、木づちとともにくようしてやり、村の人たちのたのみをうけて、オンボロ寺の和尚さんになることをひきうけたそうです。

おしまい

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