百物語 日本の怖いお話し 福娘童話集 童話・昔話・おとぎ話の福娘童話集
- 広 告 -
 


福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)

百物語 第167話

大ムカデの妖怪

大ムカデの妖怪

 むかしむかし、ある山の中に大ムカデの妖怪(ようかい)が住んでいました。
 どんな姿をしているのか、見た者はいませんでしたが、毎年、秋の名月(めいげつ)が近づくころになると、近くの村の娘のいる家の屋根に、白羽(しらは)の矢がうちこまれるのです。
 すると、その家では名月の夜に、娘を棺おけ(かんおけ)に入れて、山のふもとまで運んでいき、そこへおいてこなくてはなりません。
 もし娘をつれていかなかったら、村の田んぼや畑はメチャメチャにされてしまうのです。
 だから、村人たちは泣く泣く、この恐ろしいならわしにしたがっていました。
 ある年、石黒伝右衛門(いしぐろでんえもん)という武士の家の屋根に、白羽の矢がたちました。
 伝右衛門(でんえもん)には、十六歳になる美しい娘がいて、まるで宝物のようにかわいがっていました。
 その娘を大ムカデの人身御供(ひとみごくう→生きた人間を神さまへのそなえものにすること)に出せというのです。
(どんなことがあっても、大切な娘を渡すものか)
 しかし、娘を出さなくては、村人たちがひどいめにあわされます。
 いかに武士といっても、村の習わしを破ることはできません。
(よし、わしが妖怪を退治してやる)
 伝右衛門は覚悟をきめ、名月の夜を待ちました。
 さてその夜、伝右衛門は娘を家の蔵(くら)にかくし、みずからが娘に変装(へんそう)して、息のできるように穴のあけられた棺おけの中へもぐりこみました。
 なにも知らない村人たちは、
「あんなかわいい娘さんが、大ムカデの人身御供になるなんて」
と、いいながら、伝右衛門の入った棺おけをかついで、山のふもとまで運びました。
 ひとりになった伝右衛門は、しっかりと刀をにぎりしめ、棺おけの穴から外の様子をうかがっていました。
 月の光が明るく、草の葉がそよそよと風にゆれています。
 やがて夜もふけたころ、風がはげしくなり、草の葉が大きくうねりだしました。
と、ふいに、青白い光が流れ、目をランランと光らせた大ムカデが現れました。
 何百本とある足が草をなぎたおし、棺おけの方へ近づいてきます。
 その恐ろしい姿は、いかに武士の伝右衛門でも、思わず息をのむほどです。
 大ムカデは長いからだで、棺おけをとりかこむと、頭で棺おけをひっくり返しました。
 伝右衛門はクルリと一回転して外へとびだすと、すばやく刀をぬきます。
 大ムカデの動きがいっしゅん止まりましたが、すぐに頭をふりあげると、伝右衛門にかみつこうとしました。
 女の着物を脱ぎすてた伝右衛門は、大ムカデの首をめがけて刀をつきさします。
 大ムカデは頭を大きくうしろへのけぞらせて、その刀をよけました。
 伝右衛門は、すばやく刀を横にはらって、大ムカデのキバを切り落とすと、おおいかぶさってくる大ムカデのからだを、切って切って切りまくりました。
 さすがの大ムカデも、これにはたまらず、ついにガクッと頭をおとし、それっきり動かなくなりました。
 伝右衛門は大ムカデの死を確かめると、おおいそぎで自分の家へもどって行きました。
 話を聞いておどろいた村人たちが、山のふもとへかけつけると、大ムカデの姿はなく、黒ぐろとした血のあとが山の方まで続いていました。
「ほんとうに死んでしまったのだろうか。もし生きていたら、どんなことをされるかわかったものでない」
 村人たちはビクビクしながら、次の年の秋を待ちましたが、名月が近づいても、娘のいる家に白羽の矢はたたず、田んぼや畑も無事でした。
 村人たちは大いに喜び、伝右衛門の勇気をあらためてほめたたえたといいます。

おしまい

 前のページへ戻る

お話しの移動

・ 福娘童話集
・ 100物語 (こわ〜い話)

百 物 語

・   1話  〜  10話
・  11話  〜  20話
・  21話  〜  30話
・  31話  〜  40話
・  41話  〜  50話
・  51話  〜  60話
・  61話  〜  70話
・  71話  〜  80話
・  81話  〜  90話
・  91話  〜 100話

・ 101話  〜 110話
・ 111話  〜 120話
・ 121話  〜 130話
・ 131話  〜 140話
・ 141話  〜 150話
・ 151話  〜 160話
・ 161話  〜 170話
・ 171話  〜 180話
・ 181話  〜 190話
・ 191話  〜 200話

・ 201話  〜 210話
・ 211話  〜 220話
・ 221話  〜 230話
・ 231話  〜 240話
・ 241話  〜 250話
・ 251話  〜 260話
・ 261話  〜 270話
・ 271話  〜 280話
・ 281話  〜 290話
・ 291話  〜 300話

・ 301話  〜 310話
・ 311話  〜 320話
・ 321話  〜 330話
・ 331話  〜 334話


ジャンルの選択
・有名な話 日本 世界
・こわい話 日本 世界
・わらい話 日本 世界
・感動話 日本 世界
・とんち話 日本 世界
・悲しい話 日本 世界
・ふしぎ話 日本 世界
・恩返し話 日本 世界
・恋物語 日本 世界