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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第171話
山ナシとり
むかしむかし、あるところに親孝行(おやこうこう)な三人兄弟がいました。
父親が早くに死んだので、母親が三人を育てたのです。
その母親が病気になったので、三人は必死に看病(かんびょう)をしました。
ところが、医者にみせても高い薬を飲ませても、どんどんやせていくばかりです。
「おっかさん、なにか食べたいものはないか?」
三人が心配してたずねると、
「おら、奥山の山ナシ(バラ科の落葉高木の果実で、西日本から中国に分布。直径約2センチメートルで、黄色または紅色の外皮に小斑点が散在)が食べたい」
と、いいます。
奥山の山ナシは大変おいしいと評判ですが、そこにはおそろしい妖怪が住んでいて、いままで山ナシをとりに行って帰ってきた者はなかったそうです。
「よし、おれが行こう」
いちばん上の兄さんがいいました。
かごを背おい、どんどん山を登っていくと、大きな岩があり、その上にやせたばあさんがすわっています。
「これこれ、どこへ行く?」
「おら、奥山へ山ナシをとりに行く。山ナシはどこにあるか教えてくれ」
「いかん、いかん。あそこには恐ろしい妖怪がいて、おまえを食ってしまうぞ」
「いいや、どうしても行かねばならぬ。たのむ、教えてくれ」
兄さんがしつこく頼むので、ばあさんは、
「そんならしかたあるまい。この先の三本道のところに笹(ささ)がはえている。その笹が『行けっちゃがさがさ』『行くなっちゃがさがさ』と、鳴ってるから、『行けっちゃがさがさ』と、鳴ってるほうの道を行くがよい」
と、教えてくれました。
しばらく行くと、ばあさんのいったとおり、道が三本にわかれていて、そこに笹がはえていました。
(ふん。ばあさんのいうことなんか、あてになるもんか)
と、思って、兄さんは笹が『行くなっちゃがさがさ』と、鳴ってる右の道を、ドンドン進んでいったのです。
すると大きな沼があって、沼のほとりに山ナシの実をつけた木が何本もたっていました。
「こいつはすげえや」
兄さんが喜んでその一本に登ると、兄さんの影が沼にうつりました。
そのとたん、沼の水がグワッとゆれ、いきなり兄さんを飲みこんだのです。
さて、いくら待っても兄さんがもどってこないので、二番目の兄さんが、
「よし、今度はおれが行こう」
と、いって出かけていきました。
ところが二番目の兄さんも、ばあさんのいうことを聞かずに、笹が『行くなっちゃがさがさ』と、鳴ってる左の道を選んだので、いちばん上の兄さんみたいに、沼の妖怪のえじきになってしまいました。
二人の兄さんがもどってこないので、今度はいちばん下の弟が出かけました。
どんどん山奥へ登っていくと、大きな岩の上に、やせたばあさんがすわっています。
「これこれ、どこへ行く」
「おら、奥山へ山ナシをとりに行く」
「いかん、いかん、あそこには恐ろしい妖怪がいて、おまえを食ってしまうぞ」
そこで弟は、病気の母親に山ナシを食べさせたいことや、二人の兄さんがもどってこないことを話して、
「おら、なにがなんでも行かねばならぬ!」
と、いいました。
すると、ばあさんは、
「兄たちは、わしのいうことをきかぬから、妖怪に飲み込まれたのじゃ。だが、兄たちを助けたいというなら仕方がない、『行くなっちゃがさがさ』の方に行け。それから、困ったときは、これを使え」
と、いい、弟に刀を渡してくれました。
弟は兄たちを助けるために、危険な「いくな ガサガサ」の道を行きました。
どんどん行くと、川があり、かけた茶わんが流れてきました。
(なにかの役にたつかもしれない)
弟はそれをひろって、さらにドンドン行くと、大きな沼の前に出ました。
沼のほとりには、山ナシの木が何本もたっていて、うまそうな実がぶら下がっています。
弟が喜んで、その一本に登ろうとしたら、山ナシの実が風にゆれながら歌いだしました。
♪東の側はあぶねえぞ
♪西の側もあぶねえぞ
♪北の側は影うつる
♪南の側なら安心だ
(これは、南の側の木から登れということだな)
そう思って南の側にある木に登ったら、あるわ、あるわ、うまそうな山ナシの実がすずなりです。
弟は夢中で実をもぎ取り、背中のかごに入れました。
ところが、おりるときに枝をまちがえて、北側の木にのりかえてしまったのです。
そのとたん、沼の水が二つにわれて、大入道のような妖怪が弟を頭から飲みこもうとしました。
弟はあわてず、ばあさんからもらった刀をぬいて、妖怪ののどを突きさしました。
「ウギャャャャ!」
妖怪は大きくのけぞって沼の上にたおれ、そのまま動かなくなりました。
弟が妖怪にとびのって、刀で腹をさいてみると、妖怪のおなかから二人の兄さんが出てきました。
しかし、二人ともグッタリして動きません。
そこで弟は、拾った茶わんで沼の水をすくい、兄さんたちに飲ませてあげると、ふしぎなことに二人はたちまち元気になりました。
三人は手をとりあって喜び、おおいそぎで家に帰りました。
おいしい山ナシを食べたおかげで、母親の病気はよくなり、三人兄弟と母親は、いつまでもしあわせに暮らしたということです。
おしまい
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