福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第172話
さとりのばけもの
むかしむかし、あるところに、一人の木こりがおりました。
木こりは山に小屋を立てて、まいにちオノをふるっては、木を切っています。
あるとき、木こりが、
「きょうのうちに、どうしてもあと一本、たおさねばなんねえ」
むちゅうでしごとをしていると、とちゅうで日がくれてきてしまいました。
「もうちょっとで、おしまいになるっていうに。・・・まあ、しかたがない」
木こりがかれえだをひろいあつめて、たき火をしておりますと。
ガサガサ、ガサガサ。
クマざさをかきわけて、ひとつ目(→詳細)一本足のおやじさんが、どこからともなくあらわれて、火のそばにやってきました。
そして、だまって手をあぶりはじめたのです。
(なんだか、おかしなばけもんがでてきたな。やまんじいかもしれん)
木こりがそうおもっていると、ひとつ目のばけものがニタリとわらい、
「いま、おめえがなにをおもったか、あててみようか。『なんだか、おかしなばけもんがでてきたな。やまんじいかもしれん』そう、おもったろう」
と、いいあてました。
(おれのおもうことを、みんなさとっている。さとりのばけものかもしれん)
木こりがおもうと、ばけものがまた、
「いま、『おれのおもうことを、みんなさとっている。さとりのばけものかもしれん』そうおもったろう」
と、これまたいいあてました。
(こんなばけもんに、かまってはおられん)
木こりがにげだそうとすると、
「おめえはいま、『こんなばけもんに、かまってはおられん』と、おもったろう」
またまた、いいあてました。
木こりが、
(こんなばけもん、はやくかえればいいが)
と、おもっていると、ばけもんは、
「いま、『こんなばけもん、はやくかえればいいが』とおもったろう」
さらにいいあてました。
(これは、よわったことになったわい)
木こりが、こまりきっていたときです。
たき火の火のこが、パチーンとはじけとんで、ばけものの目にとびこみました。
ばけものはとびあがると、
「あちちちちっ! 人間て、おもわんことをするもんだ。あぶなくて、こんなところにはおられん」
あわてて、山へにげかえっていきました。
おしまい
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