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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第174話
たすけとお化け
むかしむかし、あるところに、古ぼけたお寺がありました。
このお寺には、秋風がふくとともに、ばけものがあらわれるというので、村人たちはたいそうこわがって、昼間から家にとじこもったままです。
これではいかんと、みんなは集まって相談しました。
「ほんとうにこまったのう。だれぞ、寺にいってばけものをたいじしてくれるものはおらんかのう」
ちょうどそのころ、富山(とやま)から薬売りがやってきました。
太助(たすけ)という、かしこそうな若者です。
「・・・? おかしいなあ、だれもおらん。この村は、いったいどうしたんじゃあ?」
太助は一軒の家の戸を開けてみました。
「こんちは。薬はいらんかね」
「薬どころではねえだ」
太助は、村人たちがばけもののために畑仕事にも出られず、こまっていることを聞きました。
そこで太助は、胸をドン! とたたいて、こういいました。
「わたしは、毎年みなさんに薬を買ってもらっております。そのお礼をさせてくだせえ。ここはわたしにまかせて。わたしがばけものをたいじしますで」
夜になるのを待って、太助はお寺へ出かけていきました。
秋の夜はしずかにふけて、物音ひとつしません。
太助が大きなあくびをして、コックリコックリと、いねむりをはじめたときです。
白いフワッとしたものが、太助の目の前にあらわれました。
「この寺にひとりであらわれるとは、見上げたどきょうじゃ。おまえはわしがこわくはないのか?」
「ああ、こわくなんかないわい」
ばけものは、すこしもこわがらない太助に、
「ははは、おもしろい小僧じゃ。この世にこわいもんはなにもないのか?」
「ああ、なにもないわい!」
と、いいながらも、太助の顔には、ひや汗がタラタラと流れています。
「ほれ、見い。やっぱりこわいんじゃろう。それでいいのじゃ。おばけであるわしだって、こわいものがたった一つあるのじゃからな」
「なに? おばけのおまえがか?」
「ああ、あるぞ。おまえがいちばんこわいものをいったら、おしえてやろう」
太助は少し考えると、
「わしがこわいのは、お金じゃあ。で、おまえのこわいものはなんじゃ?」
「わしか。わしはナス汁(じる)じゃあ」
「ナス汁がこわいなんて、おかしなおばけじゃなあ」
つぎのばん、太助はお寺のいろりに大きななべをかけて、集めたナスを山ほどにこみながら、おばけのあらわれるのを待ちました。
ゆうべと同じころ、おばけは大きなふくろをかついでやってきました。
「小僧、おまえのこわいお金をやるぞ」
「こ、小判だ! こわい、こわいよ〜!」
太助がにげだすと、おばけは小判をなげつけます。
たちまち部屋じゅうが小判でいっぱいになりました。
と、こんどは太助がおばけにナス汁をふりかけました。
「それ、おまえのこわいナス汁じゃ。そうれ、ナス汁じゃ。こわいぞう!」
「ひい〜っ!」
おばけは悲鳴をあげながら、庭の中をにげまわり、やがて大きな木にしがみつきました。
太助はここぞとばかり、おばけにナス汁をなべごとあびせかけます。
すると、おばけは大きなキノコにかわってしまい、小判は小さなキノコにかわりました。
こうして、おばけをたいじした太助は、村人たちからたいへんかんしゃされ、薬もずいぶんと買ってもらい、またつぎの村へとむかいました。
あの大きな木についたままのキノコは、寺のたからものになりました。
それからだそうです。
キノコ汁にナスを入れると、中毒にならないといわれるようになったのは。
おしまい
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