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百物語 第176話
ネコ岳のばけネコ
むかしむかし、たびの商人(しょうにん)の五助(ごすけ)が、九州のあそ山のおくへでかけたときのことです。
あその草原はひろくて、千里(四千キロメートル)もあるといわれています。
五助は、いつのまにか道をまちがえたらしく、いわのゴツゴツしたところにでてしまいました。
「さあ、こまったぞ」
五助がこまっていると、かすかに、ネコのなきごえがきこえました。
「はて、こんな山のなかにネコがいるとはふしぎだ。そういえば、たしかこのあたりに、ネコ岳(だけ)という山があって、ばけネコのかしらがいるときいたことがある。・・・つかまったら、たいへんだ」
五助は、いそいで山をおりかけました。
すると、山のなかにあかりがひとつ、ボンヤリとともっています。
「これはありがたい。とめてもらうとしよう」
五助が、あかりのほうに歩いていくと、りっぱなやしきがありました。
「すみません。たびのものですが」
こえをかけると、うつくしい女があらわれて、
「どうぞ、おあがりなさい」
と、おくのざしきにとおしてくれました。
しばらくすると、
「おふろがわきました。おふろに入っているあいだに、ごはんのしたくをしておきましょう」
と、さっきの女がいいました。
五助がふろにいこうとすると、ろうかですれちがったべつの女が、ひどくおどろいた顔で、
「五助どん? ・・・はっ! ここは人間のくるところではありません。はやくにげないと、ネコのすがたにされてしまいます」
と、耳うちをしました。
「あんたは、だれだね?」
「むかし、五助どんの家のちかくにいた、みけネコです。年をとったので、ネコ岳のばけネコのかしらにつかえています。それより、はやくおにげなさい」
五助はそれをきいて、いのちからがらにげだしました。
すると、
「まてぇー!」
お湯の入ったおけを手にした女たちが、おいかけてきました。
女たちは、いわの上からひしゃくでくんだおけのお湯を、五助にかけようとしました。
バシャー!
足に少しお湯がかかりましたが、五助はころげるように山をくだって、ようやく町へにげかえりました。
あとでお湯のかかった足をしらべると、ネコの毛がはえていました。
「あぶないところだった。もしふろに入っていたら、いまごろはネコに」
五助は、それからというもの、ネコ岳にはちかづきませんでした。
おしまい
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