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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)

百物語 第177話

クモ女

クモ女

 むかしむかし、たびの小間物売り(こまものうり→化粧品などを売る人)が、小さな古いお堂を見つけました。
「おおっ、今夜は、あそこをお借りしよう」
 小間物売りがお堂に入ると、中はクモの巣だらけです。
「なんと、気持ちわるい。だが、今夜は寒いし、しかたがないか」
 小間物売りは外に出て、枯れ木や木ぎれをひろってくると、いろりで、もやしはじめました。
 ようやく、からだもあたたまり、つい、ウトウトとしたときです。
 小さな手燭(てしょく→携帯用のロウソク立て)をもった女の人が入ってきました。
 ゾゾッとするくらい、美しい人です。
「すみません。るすにしまして」
「ああ、いや、こちらこそ。勝手にあがりこんで、申し訳ない」
「せっかくおいでいただいたのに、何もさしあげられません」
「いや、野宿しても、つゆでぬれて、ねられるもんではありません。ここをかしていただいて助かります」
「では、おなぐさみに、三味線(しゃみせん)などきいていただこうかしら」
 女の人は三味線をかかえてくると、
♪シャン、シャン、シャン
と、かきならしました。
 なんともいい音色で、思わずききほれていると、首すじのあたりがしめつけられるようで、息がつまりそうになりました。
 手をやると、細い糸が何本もまきついているではありませんか。
 小間物売りは、ねばつく糸を一本一本むしりとりました。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、なんでもありません。どうかおつづけください」
 女の人は、三味線をかきならしました。
♪シャン、シャン、シャン
 するとまた、糸がしつこくからまってきて、首をしめつけてきます。
 小間物売りは、ふところから小刀をとりだすと、糸をざっくり切りました。
 女の人は、そんなことは気もつかないふうで、三味線をかきならしていました。
 目をこらして見ていると、なんと女の人の着物のすそから、細い銀色の糸がスルスルのびてくるではありませんか。
(さては、この女の正体は!)
 小問物売りはむちゅうで女の人にとびかかり、小刀で切りつけました。
「ウギャャャャーーーー!」
 女はけたたましい悲鳴をあげると、外にころがり出ました。
 小間物売りは、外に出ていくのがこわくて、ただ、ガタガタとふるえていました。
 明るくなって、小問物売りがおそるおそる外に出てみると、お堂の外には、あみがさのような大グモが死んでいたということです。

おしまい

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