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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第178話
ヘビ女房
むかしむかし、炭焼きがしごとの男がいました。
この男、心はやさしいのですが、よめさんももらえぬほどの貧乏(びんぼう)でした。
ある日のこと。
男が炭焼きがまに火を入れると、かまのうしろから大きなヘビがはいだしてきました。
「おっ、よく見かけるヘビだな。ああっ、かまに近づいちゃ、あぶないじゃないか。ほれ、あっちいけや」
男はヘビを、外の草むらに出してやりました。
その夜、男の家に、美しいむすめがたずねてきました。
「わたしは、あなたを山でよく見かけていました。なんでもしますから、よめさんにしてください」
むすめをひと目見ただけで好きになった男は、よろこんでいいました。
「ごらんのとおりの貧乏で、何もないが、それでもいいなら」
こうして、むすめは男のよめさんになったのです。
よめさんは働き者で、くらしむきもだいぶよくなってきました。
男はとてもしあわせでした。
やがて、よめさんのおなかに子どもができました。
いよいよ生まれるというとき、よめさんは男にいいました。
「いまから赤んぼうを生みますが、わたしがよぶまでは、けっして部屋をのぞかないでください」
「わかった。やくそくする」
だけど、赤んぼうの泣き声が聞こえると、男は思わず、戸のすきまから中をのぞいてしまいました。
「あっ!」
男はビックリしました。
部屋いっぱいに大蛇がとぐろをまき、そのまん中に、生まれたばかりの赤んぼうをのせて、ペロペロとなめているのです。
人間にもどったよめさんは、赤んぼうをだいて出てくると、かなしそうにいいました。
「あれほど、見るなとたのんだのに・・・。わたしは炭焼きがまの近くの池にすんでいたヘビです。あなたが好きでよめさんになりましたが、正体を見られたからには、もう、いっしょにはいられません。赤んぼうが乳をほしがったら、この玉をしゃぶらせてください。わたしは山の池にもどります」
よめさんは赤んぼうと水晶のような玉をおくと、すがたをけしてしまいました。
男はとほうにくれましたが、赤んぼうは母のくれた玉をしゃぶって、すくすくとそだちました。
「母親がいないのに、ふしぎなこともあるもんだ」
玉の話はうわさになって、ついに殿さまの耳にもとどきました。
「その玉をめしあげろ!」
玉は、殿さまにとりあげられてしまいました。
玉をとりあげられた子どもは、お腹が空いてなきさけびます。
男はこまりはて、子どもをだくと、よめさんのいる山の池にいって声をかけました。
「ぼうのかあちゃんよう。どうか乳をやってくれ。あの玉は殿さまにとられちまったんだ」
すると、よめさんがあらわれ、
「この子のなくのがいちばんせつない。・・・さあ、これをしゃぶらせてくだされ」
と、いい、またひとつ玉をくれると、スーッときえました。
玉をしゃぶった子どもは、たちまちなきやんで、元気にわらいました。
ところが、その玉もまた、殿さまにとりあげられてしまったのです。
お腹の空いた子どもは、またなきさけびます。
またまたこまった男は池にいき、ことのしだいを話しました。
すると、あらわれたよめさんは、かなしげに目をふせて、
「じつは、あの玉はわたしの目玉だったのです。ふたつともあげてしまいましたから、もう玉はないのです」
「そ、それでは、目も見えないではないか、ああ、むごいことをしてしまった」
男は、だいた子どもといっしょになきました。
それを見たよめさんは、
「ああ、いとしいあなたやこの子をなかせる者は、ゆるさない。いまから仕返しをします。さあはやく、もっと高いところへ行ってください。・・・この子のことは、たのみましたよ」
そういうと、よめさんは見る間に大蛇のすがたになって、ザブン! と池にとびこみました。
池の水が山のようにふくれあがり、まわりにあふれだします。
男はわが子をかかえ、むちゅうで高い方へかけのぼりました。
のぼってのぼってふりかえると、池はふきあげるように水をあふれさせ、ふもとのお城まで流れていきます。
そして、あっという間に殿さまもろともお城をのみこみ、どこかへおし流してしまいました。
おしまい
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