|
|
福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第180話
うぶめにもらったかいりき
むかしむかし、ある北国の町に、こんなうわさが広まっていました。
「お城のおほりばたの、ふるいやなぎの木のあたりに、赤ん坊をだいた、うぶめの化け物があらわれるそうじゃ」
うぶめというのは、赤ちゃんをうむときに、死んでしまった女の人のお化けです。
「いつも、両手(りょうて)で赤ん坊をだいているため、みだれた髪の毛をととのえることができん。そこで、通りかかった人に、『髪の毛をととのえるあいだだけ、赤ん坊をだいていてもらいたい』と、たのむんじゃ。ところが、この赤ん坊も、おそろしい化け物でな。だかれているうちに、ズンズン大きくなって、ついには人をのみこんでしまうのだと。くわばら、くわばら」
うわさがひろまると、町の人たちは夕方から戸をしめて、はやくねるようになりました。
そのため、お城のおほりばたは、夜になるとだれひとり通る者がありません。
そんなあるばんのこと。
お城の用事で、帰りのおそくなったさむらいが、はやく家にかえろうと、おほりばたを通りかかりました。
名前を左内(さない)といいます。
左内は体が小さいことから、
「ちびすけ左内」
と、なかまにからかわれていました。
ところが、左内は度胸(どきょう)があり、いつも落ち着きをはらっていました。
だから、うぶめのお化けがあらわれるというおほりばたも、平気であるいていきました。
左内があるいていくと、
「もし、おさむらいさま」
おほりばたの、ふるいやなぎの木の下から、白い着物姿の女が、赤ん坊をだいてあらわれました。
(これがうわさにきく、うぶめだな)
左内はあわてず、落ち着きはらっていいました。
「なにか、わしに、ようでもあるのかな?」
「はい、髪の毛をととのえるあいだだけ、ちょっと、この子をだいていただくわけにまいりませんか」
「そんなことなら、おやすいごよう。ゆっくりと、髪をとかすがよい」
左内は、うぶめから赤ん坊をうけとりました。
赤ん坊は、かわいい女の子です。
口には、おしゃぶりをくわえていました。
「なかなか、めんこい赤ん坊じゃな。よしよし、ほらほら」
左内が赤ん坊をあやしていると、だんだん、おもたくなっていきました。
からだもグングンと大きくなって、石のようなおもさです。
赤ん坊のかおつきは、からだが大きくなるにつれて、おそろしくなってきました。
いまにも、左内に食いつきそうです。
「これはいかん!」
左内は刀をぬくと、やいばを赤ん坊にむけて、口にくわえました。
赤ん坊はさらに大きくなりましたが、刀のやいばにじゃまされて、こんどは小さくなりました。
そして、大きくなったり小さくなったりを、何度かくりかえしました。
刀のやいばがなければ、赤ん坊は、ひとおもいに大きくなって、左内におそいかかったにちがいありません。
そのうちに、うぶめが、
「ありがとうございました。おかげでこのように、髪をととのえることができました」
と、ほほえみました。
みだれていた髪の毛が、きちんと、ととのえられています。
うぶめは、赤ん坊をうけとると、
「おれいに、なにをさしあげましよう」
と、左内にたずねました。
「いや。べつにれいなどいらんが」
左内がことわろうとすると、うぶめはニッコリして、
「お気づきでしょうが、わたしはこの世の者ではありません。どんな願いもかなえられます」
「そうか。では、遠慮なしに」
左内は、少し考えてから言いました。
「わしはごらんのとおり、ちびすけ。なかまから、わらいものにされている。なにかもらえるなら、カをさずかりたいな。三十人力でも、五十人力でもよい」
左内がたのむと、
「それならば、五十人力をあげましょう」
うぶめはそういって、フッときえました。
しばらくたった、ある日のこと。
お城に、江戸のすもうとりがやってきました。
すもうの大好きな殿さまが、よびよせたのです。
殿さまは、けらいにいいつけて、すもうとりたちとすもうをとらせました。
けれど、だれひとりかてません。
あいてがすもうとりとはいえ、さむらいがコロコロとなげとばされては、なさけないかぎりです。
「だれか、かてるものはおらんのか?」
そこで左内が、
「それがしが、やってみましょう」
と、着物をぬいだので、殿さまも、ほかのけらいたちもビックリです。
「左内ではむりむり。大けがどころか、死んでしまうぞ」
殿さまがとめましたが、左内は、ふんどしひとつで土ひょうにあがると、一番つよいすもうとりとたたかって、
「どりゃあ!」
頭よりも高く、すもうとりをもちあげました。
そして、
「そりゃあ!」
大きなすもうとりを、ドスーン! と、なげとばしたのです。
「みごと! みごと! あっぱれじゃ!」
殿さまは大よろこびです。
「左内よ。ほうびとして、さむらい大将にしてやろうぞ」
こうして左内は、えらいさむらいにとりたてられたということです。
おしまい
|
|
|