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百物語 第211話
ヒヒ
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むかしむかし、ある山里に、浅右衛門(あさえもん)という元気な木こりのおじいさんがいました。
ある日の夕方、浅右衛門じいさんが仕事をおえて山から村へもどってくるとちゅう、突然谷間の方から、髪の毛が背中までたれさがっている、二メートルもある大きなサルが現れたのです。
そのサルの手には、引きちぎった人間の片腕がにぎられています。
そして浅右衛門じいさんと目があうと、こちらへ走りよってきたのです。
おどろいた浅右衛門じいさんは、すぐに肩にかついでいたオノをふりあげました。
するとサルの顔のくぼんだ目からあやしい光のようなものが出て、それを見た浅右衛門じいさんはその光に目がくらみ、ふりあげたオノをその場にほうりだすと、目をとじて両手をあわせて大声で神さまに祈りだしたのです。
浅右衛門じいさんはそのとき、フーッと気が遠くなりました。
すぐに気がついたのですが、もうサルの姿はありませんでした。
それからしばらくたった、ある夜ふけの事です。
となり村で寝ている娘さんが、何者かにほっぺたをかみつかれるという事件がおこりました。
娘さんの話では、おそってきたのは浅右衛門じいさんが出会った大きなサルとよく似ていたそうです。
夜ふけに寝ている人間までおそうようでは、ほうっておくことはできません。
そいつを見つけだして退治しようと、二つの村では鉄砲を持った猟師たちを集めて、山の中や谷間をくまなくさがしまわりました。
そして五日目の事、山二つを入った岩のかげで、やっと大ザルを見つけたのです。
腕のいい猟師がねらいをつけて、鉄砲の引き金をひきました。
大ザルはとびあがりましたがよけきれずに、足をうたれました。
大ザルは足をひきずりながら、やぶの中へ姿を消しました。
猟師たちはすぐに血のあとをつけて谷間の奥までいきましたが、大ザルは発見できませんでした。
「たしかに人間のようじゃったし、からだ中が毛でおおわれて、サルのようでもあったな」
「あれはヒヒというものにちがいない。ヒヒは何百年も生きている大きなサルで、人をおそって食うというぞ」
しばらくのあいだ山へ入る者はいませんでしたが、その後、ヒヒを見たという者はいませんでした。
おしまい
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