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百物語 第230話

白い衣の神さま

白い衣の神さま
愛知県の民話愛知県情報

 むかしむかし、お祭りがちかづいた神社で、狂言(きょうげん)の舞台(ぶたい)がせまいので舞台を広げる工事をすることになりました。
 村の人たちがひと月近く手弁当(てべんとう→自分で弁当を用意することで、一般的にボランティア活動をさします)で仕事をつづけ、あとは壁の残りの部分をぬれば工事もおわりというところへ、音吉(おときち)という若者が、おけをかついで水を運んできました。
 音吉は勢いよく、壁土(かべつち)の中へそのおけの水を入れました。
 そのとき、近くにいた人が、
「おい、そのおけはなんじゃい。しょうべんをいれるおけじゃねえか。そんなきたねえものに水を入れてくるやつがあるか!」
と、しかりつけました。
 とはいっても、水はぜんぶ壁土にそそがれてしまったので、いまさらどうすることもできません。
「しょうがねえなあ。しょうべんで壁土をこねたわけではねえから、まあいいか」
 そういって、こねた土を壁にぬって仕事をおえました。
 そして村の若者たちが新しくできた舞台で、狂言のけいこをはじめました。
 ところが夜がふけると、舞台のあちこちにワタのような物がたくさん現れて、フワフワと舞いだしたのです。
 若者たちは気味がわるくなって役人へとどけにいきましたが、役人が調べてもわかりません。
「きっと、キツネかタヌキのイタズラだろう」
と、いうことになって、次の日の夜は鉄砲(てっぽう)を持ちこんで、様子をうかがっていました。
 するととつぜん大きな音がして、火の玉がたくさん舞台の上にころがりだしたのです。
 狂言のけいこをしていた若者たちはビックリして、舞台から逃げだしました。
 三日目の夜になると、うらの山から地ひびきのような物音がひびいてきました。
 そして右の手に榊(さかき→ツバキ科の常緑小高木)の枝、左手にろうそくを持った白い衣を着た神さまのような人が現れて、茶碗ほどもある大きな目玉で、若者たちをにらみつけたのです。
 ビックリした若者たちは雨戸(あまど)をけやぶって、外へとびだしていきました。
 ある日、村の人たちの頭に音吉のことがうかびました。
 きたないおけで運んできた水で壁土をねり、それをぬってしまったために、神さまが怒っているのかもしれません。
 そして次の日の夕方、神主さんにいのってもらって、狂言の舞台をすっかり清めてもらいました。
 すると神さまも怒りをおさめてくれたらしく、その夜からなにもおこらなくなりました。
 村の若者たちも安心して、狂言のけいこにはげんだという事です。

おしまい

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