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百物語 第242話

おばばが消えた

おばばが消えた
滋賀県の民話滋賀県情報

 むかしむかし、琵琶湖(びわこ)のほとりの家に、もう七十歳をこえているのに、家族も近所の人たちもおどろくほど元気なおばあさんがいました。
 ある寒い日の夕方、これまで病気一つしたことがなかったのに、このおばあさんはいろりの前にすわっていて、そのまま死んでしまったのです。
 家の人たちも、近所の人たちもビックリ。
 けれど、とにかくお葬式(そうしき)の準備を始めなければなりません。
 お葬式の準備がひとだんらくついたとき、奥の部屋に安置(あんち)してある棺(ひつぎ)が、メリメリと音をたてて畳(たたみ)の上にころがりました。
 そして死んでいるはずのおばあさんが、白い衣のまま立ちあがると、あたりをにらみまわしたのです。
「ばっ、ば、ば、ば・・・」
 家の中にいた人たちは、言葉にならない声をあげながら、おそろしさのあまりブルブルとふるえていました。
 その中に母の急死をきいて、お坊さんになっていた息子がいたのです。
 その息子もビックリしましたが、すぐに大きな声でお経をとなえはじめると、おばあさんはそのまま棺の中へたおれて、また動かなくなりました。
 さて、次の日の夕方の事です。
 おばあさんの棺をかついでお寺にむかうとちゅうで、きゅうに雨がふりだしてきました。
 雨は大雨になり、頭の上でカミナリがとどろきはじめました。
 お寺まではもうすぐなので、お葬式の行列はそのまま進んでいきました。
 幸いなことに、まもなく雨はやみましたが、棺がきゅうに軽くなったのです。
「なんだなんだ? 棺がきゅうに軽くなったぞ。おい、ちょっとのぞいてみよう」
 足を止めて棺の中をのぞいてみると、中は空っぽで、おばあさんは消えていました。
「そういえば、さっき空から黒い雲がおりてきて、おばばの棺のまわりをとりかこんで稲光がはげしく走った。おばばはあのとき、天へ持っていかれたんだ」
と、だれかがいいました。
 棺をかついでいた人たちも、たしかにそのときから軽くなったと言っていたという事です。

おしまい

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