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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第243話
ネコ女房
沖縄県の民話 → 沖縄県情報
むかしむかし、沖縄には、八キロメートル以上も松並木(まつなみき)の続く海辺があり、その海辺のほら穴に化けネコが住みついていました。
ある時、化けネコが美しい女に化けていたら、一人の男がネコとは思わずに、
「わしの女房になってくれ」
と、言ったのです。
男はなかなかに立派で顔立ちもよく、ネコもこの男が気に入って、さっそく一緒にくらすことになりました。
男はとてもやさしく、ネコも負けじと男につくします。
やがて子どもが生まれて、何年かたつうちに、二人は三人の子持ちになりました。
ネコ女房は正体がばれないように気をつけていましたが、それでもネズミを見かけると、思わずとびつきたくなります。
それでネコ女房は、男や子どもたちがいない時に天井裏にのぼって、ネズミをとらえて食べていました。
ある日、ネコ女房が天井裏にのぼっていたら、ふいに子どもたちがかえってきました。
ネコ女房はあわてて下へおりましたが、口にはまだ、ネズミをくわえたままです。
「かあちゃん、どうしたの!」
子どもたちはビックリして、顔を見あわせます。
ネコ女房はハッとして、ネズミをはなしました。
「ネズミなんかくわえて、ネコみたい」
子どもたちがそう言うので、ネコ女房は、
「ネズミがあんまりうるさいので天井裏へ行ったら、いきなりかあちゃんの口にとびついてきたのよ。いい子だから今日のこと、とうちゃんに言うんじゃないよ」
ネコ女房は何とか言いくるめましたが、子どもたちは、まだ信じられないという顔をしていました。
夕方になり、男が仕事からもどってくると、子どもたちは母親にかくれて今日の出来事を話しました。
それを聞いて、男はビックリ。
だからといって、いきなり女房を問いつめるわけにもいかず、しばらくようすを見ることにしました。
ようすを見ていると、女房にはおかしなことがあります。
だれもいないことがわかると、ゴロゴロとのどを鳴らしたり、時にはネコのように、かまどの上にのぼったりするのです。
(もしかして、ネコにとりつかれたのかもしれないぞ)
男は心配になって、
「かあちゃんは病気かもしれないから、気をつけてやるように」
と、子どもたちに言い聞かせた。
ところが子どもたちは、それ以来、母親をおびえるようになりました。
男は思いきって、女房に別れ話を持ち出すと、
「子どもにきらわれてはしかたがないので、別れることにします」
女房はそう言って、家を出ていきました。
(いったい、どこへ行くのだろう?)
男はこっそりと、女房の後をつけました。
女房は後ろもふり向かずに、どんどん歩いていって、ほら穴の中に消えました。
男がほら穴のようすをさぐっていたら、奥の方から女房の声が聞こえてきて、
「どうやら、正体を見破られてしまったらしい。せっかくうまくやっていたのに。いつかこのうらみは、はらしてやる」
と、言ったのです。
そして、姿の見えない誰かが言いました。
「そうは言っても、お前がネコだということが、わかったわけではないだろう」
「いや、ネズミをくわえているところを、子どもたちに見られてしまった」
「そうか、それなら仕方ない」
その話を聞いていた男はビックリ。
まさか自分の女房が、ネコだなんて。
ほら穴のネコの話しは、まだ続きます。
「しかしな、男の命をとるといっても、相手に呪文(じゅもん)をとなえられたらどうする? われらはあの呪文をとなえられると、手出しができなくなるぞ」
「大丈夫よ、今の若い人間が、呪文なんて知るわけがない」
「まあ、たしかに。知っているとすれば、村一番の年寄りのおばばぐらいだろう」
男はそれを聞くと、すぐにほら穴をはなれて、村一番の年寄りのおばばの家に行き、わけを話して、
「化けネコを追いはらう呪文を教えてくれ」
と、たのみました。
「さて、うまく思い出せるかどうか」
そう言いながらも、おばばは呪文を思い出してくれました。
♪ネコネコ鳴くな。
♪北風吹けば、南に飛ばされる。
♪南風吹けば、北に飛ばされる。
♪ネコネコ鳴くな。もう鳴くな。
男は呪文の言葉をしっかり覚えると、家にもどって行きました。
その晩、男が子どもたちを寝かせていたら、表から気味の悪いネコの鳴き声がひびいてきました。
「フギャー! フギャー!」
男は鳴き声の方に向かって、教えてもらった呪文をとなえました。
♪ネコネコ鳴くな。
♪北風吹けば、南へ飛ばされる。
♪南風吹けば、北に飛ばされる。
♪ネコネコ鳴くな。もう鳴くな。
すると、ネコの鳴き声がおさまり、
「くやしいー!」
と、言う言葉を残して、一匹のネコがたちさっていくのが見えたという事です。
おしまい
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