|
|
福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第263話
人食いウサギ
むかしむかし、ある村に一人のお坊さんがやってきて、
「お宮の社に、毎晩もちをそなえなさい。そうしないと、悪いことがおきるであろう」
と、いいました。
心配した村人たちは、さっそくもちをついてお宮の社にそなえました。
ところがどうしたことか、もちを持っていった人がもどってきません。
「どこへいったのだろう?」
みんなであちこち探してみましたが、どこを探しても見つかりません。
「お坊さんのいった様に、悪いことが起き始めているのかもしれん。早くもちをそなえないと」
そこでまたもちをついて、お宮へ持っていきました。
するとやっぱり、もちを持っていった人がもどってきませんでした。
「大変だ! これはえらいことになったぞ」
村はたちまち、大騒ぎになりました。
再びもちをそなえようと言うことになりましたが、誰もが、もちを持って行くのを嫌がりました。
でも、もちをそなえないと、どんなことがおきるかわかりません。
そこで仕方なく、くじびきでもちをつくことにして、そこの家の者がお宮へ持っていくことにしました。
しかしまたもや、もちを持っていった人は、誰一人戻ってきませんでした。
「このままでは、村の人たちがみんないなくなってしまうぞ」
「よし、おれたちでなんとかしよう」
ある日、勇気のある若者が二人して、
「今夜は、おれたちがもちをついて持っていく」
と、いいました。
さて、その日の夜。
二人はもちをついて袋に入れて、お宮に出かけました。
二人はお宮の社の前にもちの袋をおき、すばやく木の後ろにかくれました。
すると、丸々と太ったウサギがたくさん出てきて、口ぐちになにやらとなえながら、月を見あげては頭をさげます。
「なんて、でっかいウサギだ」
「しかし、あのウサギたちが村人たちを?」
二人がじっと見ていると、一匹のウサギが人間の声で言いました。
「もちを持ってきた奴はどこへいった? はやく見つけて食べてしまえ!」
それを聞いた二人の若者は、おもわず顔を見合わせました。
(やっぱり、あいつらがもちと人間を食べていたんだ)
二人は死にものぐるいで駆け出し、村へもどってきました。
すぐに村の人たちにわけをはなして、おそろしいウサギをやっつける相談を始めました。
「しかし、このままわしらがいってもだめだ。なにしろ、人間を食べるウサギだからな」
「それなら、どうやってやっつけようか?」
みんなが考え込んでいると、だれかがいいました。
「犬はウサギを捕まえるぞ。だから、ばあさんのところの犬を連れていけばいい。あの犬ならウサギをやっつけてくれるかもしれないぞ」
「なるほど、あの犬なら大丈夫だ」
そこで二人の若者は、犬を飼っているおばあさんのところへいきました。
「ばあさん、この村の人やもちを食べたのは、ウサギの化け物だということがわかった。ばあさんのところの犬は、いつも山でウサギを捕まえてくるだろう、だからきっとウサギをやっつけてくれると思うのだ。だから、わしらに犬をかしておくれ」
「そうか。そんならつれていくがよい」
おばあさんは気持ちよく、犬をかしてくれました。
二人の若者は犬をつれて、再びお宮にいきました。
ウサギたちは、まだ袋のもちを食べています。
二人はウサギたちにそっと近づくと、犬を放ちました。
ワンワンワンワン!
そのとたん、犬はウサギに襲いかかり、するどいキバで次々とウサギをかみ殺しました。
するとその騒ぎを聞きつけたのか、社の中からお坊さんが姿を現しました。
「あっ、あのお坊さんは!」
「そうだ。たしか、もちをそなえるようにいったお坊さんだ」
二人がびっくりしていると、犬はお坊さんめがけてとびかかりました。
「うぎゃーー!」
お坊さんはするどい悲鳴をあげたかとおもうと、たちまち大ウサギの姿にかわりました。
大ウサギは犬の三倍ほどもありましたが、犬はウサギの一瞬のすきをついて、ウサギの喉を噛み切りました。
こうして犬のおかげで、おそろしいウサギたちは退治されたのです。
後で村人たちが社の中を調べると、今までに行方不明になった人たちも含めて、白骨となった人間の骨が山のように出てきたと言うことです。
おしまい
|
|
|