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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第269話
げたの化け物
むかしむかし、ある村に、はきものをそまつにする家がありました。
この家では、おかみさんがはきものにうるさくて、ちょっとでもげたの歯が欠けたり、はなおが切れたりすると、すぐに捨ててしまうのです。
だから主人も子どもも、いつも新しいはきものをはいていました。
ある晩の事、家の者がみんな寝た後、女中さんが一人で起きて、ぬいものをしていました。
すると、表の方から、
♪からこん、からこん
♪穴が三つに、歯が二つ
と、歌いながら、だれかやってくるのです。
「あら? こんな夜中に、おかしな歌を歌う人もいるものだね」
女中さんが戸のすきまから、そっと外をのぞいてみましたが、だれもいません。
ところがしばらくすると、また、
♪からこん、からこん
♪穴が三つに、歯が二つ
と、いう歌声と一緒に、げたを鳴らす音まで聞こえてくるのです。
女中さんは怖くて怖くて、眠る事が出来ません。
とうとう朝まで、一睡もしませんでした。
やがておかみさんが起きてくると、女中さんはさっそく、ゆうべの出来事を話しました。
でもおかみさんは、
「あははは。何をばかな事を。おおかた夢でも見ていたんだろう」
と、女中さんがいくら説明しても信じてくれません。
「本当なんです。うそだと思うなら、今夜わたしの部屋に来てください」
「はいはい、わかった。そんなに言うなら今夜、お前の部屋に行こう」
その晩、おかみさんは女中さんの部屋に出かけましたが、いつまでたっても変わったことがありません。
「しかたがない。そろそろ休むとしようかね」
おかみさんが部屋を出ようとすると、だれか歩いてくるらしく、げたの音がして、
♪からこん、からこん
♪穴が三つに、歯が二つ
と、歌いはじめました。
「あれま、やっぱり、お前の言う通りだね」
でもおかみさんは、とても気の強い女の人なので、女中さんのように怖がったりしません。
「どれ、わたしが正体を見とどけてやるよ」
そう言って、いやがる女中さんをひきたてて戸口のそばに立ち、細くすきまを開けさせました。
すると、どうでしょう。
大きなげたの化け物が、おかみさんが昨日捨てたばかりのげたを手に持って、歌いながら表を歩きまわっているではありませんか。
♪からこん、からこん
♪穴が三つに、歯が二つ
その歌声は、怖いと言うよりも悲しく寂しい歌声です。
しばらく歩きまわっていたげたの化け物は、ゆっくり裏にまわり、物置のあたりで姿を消しました。
「なんだい。げたと物置に、何か因縁でもあるのかね?」
化け物の後をつけてきたおかみさんは、思いきって物置の戸を開けました。
「あれまあ、こういう事だったのかい」
なんとそこには、おかみさんがいままでに捨てた古いげたが、山のように積みあげられていたのです。
まだ使えるのに捨てられたげたに魂が宿り、いつかもう一度はいてもらおうと、物置を住み家にしていたのです。
そんな事があってからは、さすがのおかみさんも、はきものを大切にするようになったそうです。
おしまい
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