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百物語 第271話
供養を願う、がい骨
京都府の民話 → 京都府情報
むかしむかし、京の町はずれの山の中に、一人の男がすんでいました。
男は若いとき、大名につかえる侍でしたが、あいつぐ戦の世の中に嫌気がさして、今ではしがないしば売りです。
山でかったしばをかついでは町へ売りにいって、ほそぼそとくらしていました。
ある日、男がしばを売り終えて夜道を帰ってくると、ポツポツと雨が降ってきました。
「ぬれてはかなわん」
男が道を急ぐと途中の林の奥に、ポッ、ポッ、ポッと、青白い炎が現れました。
「おや? あれは何だ? もしや話に聞く、幽霊火かもしれんな」
ふつうの男なら恐ろしくて逃げ出すところですが、さすがはもと侍です。
正体を確かめようと、林の奥へ入っていきました。
すると幽霊火が燃えていたあたりには、人の骨がいくつも散らばっています。
「戦続きの世の中とはいえ、ずいぶんと、ひどいありさまだ」
男が散らばっている骨を、一つ一つ丁寧に拾いはじめると、不思議なことがおこりました。
バラバラだった骨が吸い寄せられるように集まったかと思うと、手足の骨から頭蓋骨まで全てそろって、ギシギシと音を立てながら起き上がったのです。
「な、なんと!」
起き上がったがい骨は、一体だけではありません。
林のあちこちに、数え切れないほどいるのです。
男の目の前のがい骨が、男に手をあわせて口をカクカクさせました。
「どうか、われわれ、無縁仏(むえんぼとけ)を、とむらって、くだされ。お願い、です」
「わかった。お坊さんをまねいて、必ず供養してしんぜる」
「恩に、きる」
ガイコツは安心したのか、バラバラとくずれてしまいました。
男は次の朝、しばを売ってつくったわずかなお金をもって、お寺の和尚をたずね、林のがい骨たちのとむらいをしてもらいました。
おしまい
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