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百物語 第272話
三つ目の大入道
京都府の民話 → 京都府情報
むかしむかし、京の都に、どんなことにもおどろかない侍がいました。
腰にはいつも、先祖から伝わる自慢の刀をさしています。
ある晩おそく、この侍が五条通(ごじょうどおり)を歩いていくと、後ろから足音をしのばせてついてくる者がいました。
「さては、あやしいやつ」
侍がふりかえると、まだ七つか八つの子どもでした。
「なんだ。化け物かと思えば子どもではないか。いまごろ、どこへいく?」
すると、子どもは、
「どこへいこうと、おらの勝手だ」
と、いいながら、いきなり三つ目の大入道に姿をかえました。
「おのれ! やはり化け物であったか。覚悟いたせ!」
侍は自慢の刀を抜くがはやいか、大入道にきりかかりました。
すると大入道は、ひょいっととびあがって、そのまま消えてしまいました。
「はん。口ほどもない化け物だ。あんなやつなら、いくつ出てきても平気だ」
侍が歩き出すと、今度は後ろからパタパタと履き物の音がして、美しい女の人がかけよってきました。
「お侍さま、お助けくださいまし。ただいますぐそこで大入道のお化けにあい、命からがら逃げてまいりました。途中まで、おくっていただけないでしょうか?」
侍は、女をひと目ながめて、
(これは、さっきの化け物が仕返しにきたのだな)
と、正体を見破りましたが、なにくわぬ顔で、
「いいでしょう。どこへでも、おくりましょう」
と、一緒に歩き出しました。
「ところでその大入道は、どんなやつでしたね?」
侍が聞くと女は立ち止まって、恐ろしそうに着物の袖で顔をかくしましたが、
「それは、ちょうど、このような姿でございましたよ」
と、いきなり三つ目の大入道になりました。
けれど侍は再び刀を抜きはなって、大入道にきりつけました。
「覚悟ー!」
侍が力まかせにきりつけると、ガチーンと、たしかな手ごたえがあり、刀から火花がとびちりました。
「さあ、しとめたぞ」
ところが大入道の姿は、どこにもありません。
侍がきりつけたのは道ばたの石どうろうで、自慢の刀は刃こぼれでボロボロです。
「ああ、自慢の刀が!」
侍はがっくりと肩を落とすと、とぼとぼと引き上げました。
しかし大人道の化け物も、この侍がよほど怖かったのか、それから二度と現れることはありませんでした。
おしまい
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