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百物語 第276話

むねんじゃあ!

むねんじゃあ!

 むかしむかし、ある村に、ばさばさ髪で体の大きな女の化け物があらわれました。
 人をおそったりはしないのですが、
「むねんじゃあ! むねんじゃあ!」
と、いいながら、明け方まで村を歩きまわるのです。
 村の人たちは、日がくれると、
「むねんの化け物に入りこまれたら、なにをされるやらわからん」
と、早々と戸じまりをしてしまいます。
 あるとき旅のお坊さんが庄屋(しょうや)さんの家にとめてもらい、むねんの化け物の話を聞くと、
「よし、わしが今夜、化け物の正体を見とどけて、なにがむねんなのか聞いてみよう」
と、出かけていきました。
 その日の真夜中、お坊さんが村はずれの道ばたにただずんでいると、化け物がやってきました。
「むねんじゃあ! むねんじゃあ!」
 ばさばさ髪の体の大きな女の化け物が、ゆっくり歩いてきます。
 お坊さんは、化け物を呼び止めて、
「お前さんは何がむねんで、毎晩さまよい歩くのだね。よかったら、わけを話してくれ」
と、たずねると、
「はい。わたしは、この先にある空寺の庭のソテツの精です。ソテツは根もとに金気(かなけ)をほどこしてもらわないと、生きていけません。寺に和尚さんがいたときには、古釘やら、こわれたなべかまをほどこしていただけたので、みきも太く、葉も青々としていたのですが、それがない今、わたしはまもなく枯れてしまいます。それがむねんで、むねんで」
と、化け物は涙ながらに、うちあけました。
「なるほど、そうだったのか。よしよし、もう心配することはない」
 お坊さんがいうと、ソテツの精は安心したのか、空寺の方へもどっていきました。
 お坊さんから、むねんの化け物の正体と、むねんがるわけをきいた庄屋さんは、あくる朝、村中の古釘や、こわれたなべかまを集めて、お坊さんや村の人たちと空寺へいきました。
 そしてそれを庭のソテツの根もとにうめてやったところ、枯れかかっていた葉が、たちまち青々としてきました。
 そしてその晩から、むねんの化け物は出なくなりました。
 それから旅のお坊さんは村のみんなにたのまれて空寺の和尚になり、いつまでもソテツのめんどうをみてやったそうです。

おしまい

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