福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第279話
ネコ浄瑠璃
むかしむかし、あるところに、一人ぐらしのおばあさんがいました。
おばあさんは大のネコ好きで、一匹のトラネコを長い間可愛がっていました。
おばあさんのネコは人間の年でいえば、もう百才以上なのですが、いたって元気で、そんな年にはみえません。
ある日の事、村に人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)の一座がやってきました。
でも、おばあさんは足腰が悪くて、見物に行く事ができません。
「人形浄瑠璃か、・・・見たかったな」
おばあさんがそう言うと、いろりのそばでいねむりをしていたトラネコが、人間の言葉で言ったのです。
「それじゃあ、おらが浄瑠璃を語ってやろうか。ただしこの事は、だれにもしゃべらないでくれよ」
おばあさんは、びっくりするやら、うれしいやら、
「わかった。だれにもいわんから、はやく語っておくれ」
と、たのみました。
するとネコは、本物の浄瑠璃語りのように座布団にすわって、語りはじめました。
その語りの素晴らしく、村に来ている本物よりも上手なのです。
おばあさんがすっかり聞きほれていると、浄瑠璃見物から帰ってきた隣の家のおじいさんが、その語りを聞いてしまったのです。
次の日、用事で家の外に出てきたおばあさんに出会った隣のおじいさんは、昨日の事をおばあさんにたずねました。
「昨日、あんたの家から浄瑠璃語りのいい声が聞こえたが、一体、だれが語っていたんだね?」
するとおばあさんが、ついうっかり、
「実は、うちのネコがね」
と、口を滑らせてしまったのです。
そして用事を済ませて家に帰ったおばあさんに、ネコはキバをむいてにらみ付けました。
「おばあさん、あれほど約束したのに、よくも昨日の事を人にしゃべったね。・・・本当なら殺してやるところだけど」
ネコはそう言うと家を出て行き、二度と帰っては来ませんでした。
おしまい
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