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百物語 第280話

一つ目小僧

一つ目小僧
京都府の民話京都府情報

 むかしむかし、京の町に、腕の良い刀屋がいました。
 梅雨時の、ある晩の事、注文先の屋敷へ刀を届けに行ったところ、刀の出来をとても気に入った主人が刀屋をごちそうでもてなしたので、帰るのがとても遅くなってしまいました。
「雨も降っているし、近頃は化け物が現れるとのうわさだから、今夜は泊まっていきなさい」
 屋敷の主人はそう言ったのですが、
「いや、今日は魔除けの名刀をたずさえてますから、何が出ようと、ご心配にはおよびません」
と、刀屋は屋敷を出ると、自分の店のある西の方角を進みました。
 しばらくいくと、ある家の門の下で、一人の小坊主が雨やどりしていました。
 六つか七つくらいの年で、身なりはちゃんとしていますが、この雨でびしょぬれです。
「おや? どこの小僧さんだ? かわいそうに、和尚さんにしかられて、寺を飛び出したかな? よしよし、わしが、寺まで送ってやろう」
 刀屋がかさをさしかけると、小坊主は何も言わず、とことこと歩き出しました。
「これ、待ちなさい。そのまま雨に濡れては、風邪をひくぞ」
 刀屋が話しかけても、小坊主は一言も返事をしません。
 でもやがて、小坊主はふと立ち止まると、刀屋にゆっくりと顔をふりむけました。
「よかった、やっと止まってくれたか。・・・ひぇーっ!」
 刀屋は、小坊主の顔を見てびっくり。
 なんと小坊主顔には、大きな目が一つしかなかったのです。
「一つ目小僧だー!」
 そう言って、刀屋は気を失ってしまいました。
 さて、明け方になって、刀屋はやっと我にかえりました。
「はっ、そうだ、魔除けの名刀は? そしてここは、どこだ?」
 まわりを探してみると、かさやちょうちんは、そばに落ちていましたが、魔除けの名刀は、どこにも見当たりません。
 そして不思議な事に、刀屋は確かに西の方角へ歩いていたのですが、刀屋が倒れていたのは、正反対の町の東のはずれだったそうです。

おしまい

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