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百物語 第281話

娘の骸骨

娘のガイコツ
岩手県の民話 → 岩手県の情報

 むかしむかし、お酒好きのおじいさんが、お酒を持って浜辺へ散歩に出かけました。
 おじいさんは浜辺でちょうど良い大きさの石を見つけると、そこに腰をかけてお酒を取り出しました。
「天気も良いし、ながめも良い。今日はここらで、一杯やるか」
 そして飲み始めて良い気分になったおじいさんが、ふと足元を見ると、そこにガイコツが転がっていたのです。
「これはこれは、いかなる人のガイコツか知らぬが、お前さんも一杯やりなされ」
 おじいさんは、そのガイコツにお酒をそそぎかけると、陽気に歌を歌って楽しい時間を過ごしました。
 そして酒を飲み尽くしたおじいさんが帰ろうとすると、後ろから声をかける者がありました。
「もし、おじいさま、ちょっと待って下さい」
 おじいさんが振り返ってみると、そこには十七、八歳の美しい娘が立っていました。
 その娘は、おじいさんににっこり微笑むと、
「今日はおじいさまのおかげで、本当に楽しかったです。よければ、お礼をしたいと思います」
と、言うのです。
 おじいさんは首を傾げて、
「はて、こんな美しい娘に知り合いは無いし、お礼をされるような事は、何もしとらんぞ。・・・ははーん、さては、キツネだな」
と、言いました。
 すると娘は、
「おじいさま、よく聞いてください。私は三年前のちょうど今頃、川で溺れて死んでしまい、そのまま海に流されて、この砂浜にたどり着いたのです。この月の二十八日は、私の三年忌に当り、家で法事があります。お礼はその日にしますから、どうかその日は、必ずここに来てください」
と、言いました。
「なるほど。では、あんたはあのガイコツであったか。よし、わかった。二十八日にまた来よう」
 おじいさんは約束をすると、帰って行きました。
 さて、その二十八日になりました。
 おじいさんがやってくると、娘はちゃんと待っていて、そのままおじいさんを隣村の大きな家に案内しました。
 その家では娘の言葉通り、法事が行われています。
 見知らぬおじいさんがやって来た事に気づいた家の主人が、おじいさんに尋ねました。
「あの、あなたは、どこのどなたさまですか?」
「ああ、わしはこの娘に連れられて・・・。おや?」
 おじいさんは娘を振り返りましたが、娘の姿は消えていました。
 そこでおじいさんは、今までの話を家の主人に話して聞かせました。
 すると家の主人は驚いて、
「それは、間違いなくわたしの娘だ。ぜひ、その浜辺へ案内してくだされ」
と、おじいさんに頼みました。
 そこでおじいさんは、家の人たちをあの浜辺へ案内してやりました。
 ガイコツを見た家の人は、そのガイコツは娘に間違いないといって、その娘の骨を持ち帰ると、改めて法事をやり直したのです。
 そしておじいさんは、その家の主人からたくさんのお礼をもらって、大好きなお酒を思う存分飲む事が出来たそうです。

おしまい

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