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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第284話
小僧の鬼退治
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むかしむかし、ある村に、人食い鬼が現れました。
鬼は村の女や子どもをさらっては、山でボリボリ食べてしまうのです。
この村のお寺の和尚さんは、朝から晩までお経をあげて、鬼から村を守ろうと一生懸命でした。
しかし、そんな和尚さんのお経も鬼には通じず、村からはだんだん人が少なくなっていったのです。
そんなある日の事、お寺の小僧さんが和尚さんに言いました。
「和尚さま、おらを鬼退治に行かせてください。このままでは村から人がいなくなります。正直、どうやって鬼退治をすればいいかはわかりませんが、こうやっている間にも鬼はやって来るのです」
それを聞いた和尚さんは、あわてて首を横に振りました。
「何を言っとる。お前に鬼を退治できるわけがないだろう。行っても食べられてしまうだけだ」
「いいえ、行かせてください」
「駄目じゃ!」
「絶対に行きます」
「・・・・・・」
とうとう根負けした和尚さんは、小僧さんにお寺の宝物の隠れみのとわらじを渡しました。
「いいか。この隠れみのは、かぶれば姿が消えるみのじゃ。わらじは韋駄天(いだてん)わらじと言って、はけば風のように早く走れるわらじじゃ。むかし天狗さまからいただいた、この寺の大切な宝だが、お前にやろう。では、気をつけて行ってくるのじゃよ」
「はい。ありがとうございます」
小僧さんは隠れみのと韋駄天わらじを持って、元気よく鬼の住む山にむかいました。
でもあまり元気よく山を登った為、途中でくたびれて眠くなってしまいました。
そこで小僧さんは隠れみのを着て横になり、グーグーと寝てしまったのです。
そこへ、運悪く鬼がやって来ました。
「くんくん、おや? 人間の匂いがするぞ」
匂いはしますが、人間の姿はどこにも見えません。
そのとき小僧さんは、寝返りをうってしまったので、かぶっていた隠れ蓑から足を出してしまいました。
「ははっ、見つけたぞ」
鬼は小僧さんの小さな足をつかむと、そのまま持ちあげました。
「しまった!」
小僧さんは逆さにつるされたまま暴れましたが、鬼はそのまま住みかに連れて行くと、小僧さんを岩屋へと放り込みました。
そして、どんぶりに山盛りのご飯を持って来て、小僧さんに差し出しました。
「小僧、この飯を全部食っておけ。お前が丸々太ったところを食ってやるからな」
鬼はそう言うと、どこかへ行ってしまいました。
さて、一人残された小僧さんは、どんぶりいっぱいのご飯を見ながら考えました。
(あせっては駄目だ。落ち着いて、いい方法を考えないと・・・。そうだ!)
ある名案を思いついた小僧さんは、ご飯を岩屋のすみっこにかくしました。
夕方なり、鬼はまたどんぶりいっぱいのご飯を持って来て言いました。
「小僧、たーんと食え、どんどん食え、全部食え。お前は明日、おれさまの朝飯になるのだからな」
「はい、おいしくいただいております」
小僧さんはそう答えて、鬼が行ってしまうとまた、ご飯をすみっこに隠しました。
そして朝がくると、小僧さんは隠しておいたご飯を着物の下のお腹のあたりにつめておきました。
やがて鬼がやって来て、岩屋を開けました。
「さあ、小僧。いよいよ食ってやるぞ」
鬼が手を伸ばした時、小僧さんは大声で言いました。
「鬼さん! 鬼さんは、人間の出来る事なら何でも出来るって本当ですか? おらを食べる前に、その証拠を見せてください!」
「何だと! 生意気な事を言う小僧だな。人間のお前に出来て、おれさまに出来ない事などあるものか!」
「それなら、これは、できますか?」
小僧さんは小刀を取り出すと、
「えいっ!」
と、自分のお腹を切りました。
すると着物が切れて、さっきつめたご飯がバラバラと出て来たのです。
「どうです? おらは、腹を切って昨日食べたご飯を出すことが出来るのですよ」
それを見た鬼は、ちょっとびっくりしましたが、でもすぐに小僧さんをにらみ付けて、
「なんだ、それくらいの事か。このおれさまが腹を切ったら、今までに食った人間の骨がバラバラと出て来るわ」
と、小僧さんから小刀を取り上げると、小僧さんの真似をして思いっきりお腹を切りました。
そのとたん、
「うぎゃーーっ!」
と、叫んで、鬼は死んでしまいました。
「やった! 鬼をやったけたぞ!」
こうして見事に鬼退治をした小僧さんは、和尚さんにもらった韋駄天わらじをはいて、風のように寺へ帰っていきました。
おしまい
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