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百物語 第290話
吼牛山(もうしやま)
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むかしむかし、ある山のふもとに、とても欲張りな長者が住んでいました。
長者は山の裏に広い牧場を持っていて、たくさんの使用人を雇っていますが、その人使いの荒さはとても有名でした。
さて、この長者には、おゆきという一人娘がいます。
おゆきは父親とは違って、とてもやさしい娘で、使用人たちにも親切にしていました。
そのおゆきが、牧場で働く使用人の道太郎という若者と恋仲になったのです。
ある日の事、牧場に牛を放していた道太郎は、うっかり一頭の小牛を見失ってしまいました。
さあ、こんな事が長者に知れては大変です。
道太郎は、あっちの山、こっちの野原と、必死になって小牛を探し回りましたが、ついに小牛は見つかりませんでした。
しょんぼりと家に帰ってきた道太郎は、長者に土下座をしてあやまりました。
すると長者は、
「土下座ぐらいで、牛一頭を許してもらえると思うのか! もう一度探してこい! 見つかるまで帰ってくるな!」
と、家を追い出したのです。
仕方なく道太郎は、まっ暗な山の中を再び小牛探しに出かけました。
そして道太郎は、帰ってはきませんでした。
「もしかすると、オオカミに襲われたのかもしれない」
おゆき心配で、食事も喉を通りません。
そして十日目になると、おゆきはついに我慢できなくなり、道太郎を捜しに家を飛び出したのです。
そしておゆきも、帰っては来ませんでした。
その時始めて、おゆきと道太郎が恋仲であった事を知り、長者は自分がひどい事をしたと、涙を流しながら後悔したのです。
やがて二人が消えた山に、化け物が出るとの噂が流れました。
その化け物は、人間の子どもの様なやさしい顔に、黒牛の体を持っており、鳴き声も牛にそっくりだと言うのです。
人々は、おゆきと道太郎の怨念が、この化け物を生み出したとうわさしました。
それ以来、この山は『吼牛山(もうしやま)』と、呼ばれるようになったそうです。
おしまい
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