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百物語 第295話
鬼笛
京都府の民話 → 京都府情報
むかしむかし、京の都に、笛の名人と呼ばれる博雅(はくが)の三位(さんみ)という人がいました。
月のとてもきれいな夜の事です。
博雅が散歩に出かけて、朱雀門(すざくもん)のあたりで笛を吹いていますと、近くでとても美しい笛の音がしました。
「これは見事な。いったい誰だろう?」
博雅は、そのあまりのすばらしさについ聞きほれてしまい、その笛の主をつきとめる事が出来ませんでした。
一ヶ月たった満月の夜、博雅は再び朱雀門のそばまでやってきました。
すると思った通り、あの美しい笛の音が流れてきます。
曲が終わるのを待って、博雅は笛の主に声をかけました。
「私は博雅という者ですが、先日あなた様の笛の音を耳にして以来、すっかりそのとりこになってしまいました。ぜひお名前をお聞かせ下さいませ」
ところが笛の主は、
「自分は、名のある者ではないので」
と、言って、名前を言いませんが、
「もしよろしければ、お互いの笛を交換して、一度吹いてみませんか」
と、自分の笛をさし出しました。
博雅は喜んで応じると、どきどきしながら、あの名笛を手に取りました。
そして、おそるおそる口をつけて吹き始めますと、何と博雅が吹いても変わらぬ美しい音が流れてゆきます。
すっかり夢見心地で吹いているうちに時は流れて、博雅が我にかえった時には、すでに笛の主は姿を消してしまった後でした。
博雅は、何とか名笛(めいてき)をお返しすべく、満月の夜がくる度に、その人の姿を求めて探しまわりましたが、ついに見つける事が出来ませんでした。
博雅は申し訳なく思い、その名笛を大切に保存できる場所にしまいこむことにしました。
さて月日は流れて博雅がこの世を去った後、その不思議な笛の噂を耳にされた天皇が、ぜひ伝説の笛を浄蔵(じょうぞう)という笛の達人に吹かせてみたいとお望みになりました。
そして浄蔵が吹き始めますと、どこからか、
「久方ぶりの鬼笛じゃ。して吹いているのは、何という鬼か?」
と、いう声がしたのです。
浄蔵は驚いて、その事を天皇に告げますと、天皇はとても感心して、その笛に『鬼笛葉二(おにぶえようじ)』と名を付けて、大切にご秘蔵になられたということです。
おしまい
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