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百物語 第299話
琵琶石(びわいし)
長崎県の民話→ 長崎県情報
むかしむかし、西海(さいかい)のある村に、目の不自由なおじいさんと、静香(しずか)という孫娘が住んでいました。
静香は心のやさしい、とてもおじいさん思いの娘で、毎日毎日仕事のあいまには、
「どうか、じいさまの目が治りますように」
と、神さまにお願いしていたのです。
そんなある日の事、静香は一人の修験者(しゅげんしゃ)に出会いました。
おじいさんの目の話をすると、
「あはははっ。目を治すなど簡単、簡単。わしが祈祷(きとう)すればすぐ治る」
と、いうのです。
けれどもそれには、米十俵と小判十枚がいるというのです。
貧しい静香には、とうてい払えるわけがありません。
あれこれ考えた未、静香はその修験者の世話で、一年の間、奉公(ほうこう)にあがる事にしたのです。
やがて家を出る朝、あの修験者がやって来ました。
修験者は、おじいさんの枕もとで何やら、まじないの文句を唱えると、静香をせきたてて船に乗り込みました。
さて、修験者に祈祷してもらったおじいさんの目は、良くなるどころか悪くなる一方です。
そのうち半年もすぎたころには、もう何も見えなくなってしまいました。
それだけではありません。
約束の一年がたっても、どうしたわけか静香は戻ってこないのです。
いつしかおじいさんは琵琶法師となり、村々を回りながら、静香を探して歩くようになりました。
ある日の事、海のそばを歩いていたおじいさんは、ふと、静香の声を聞いたように思いました。
「おお、静香、やっぱり戻ったか」
声のした方に向かって思わずかけ寄ったとき、おじいさんは足をすべらして、崖の下にころげ落ちてしまいました。
次の日、海岸で琵琶を抱いたまま死んでいるおじいさんを、村の若者が見つけました。
おじいさんは村人たちの手で葬られましたが、いつしか、おじいさんが踏みはずしたがけの石は『琵琶石』と呼ばれるようになりました。
そして、夜になるときまって、
「しずかー、しすかー」
と、言う、おじいさんのあわれな声が、石の中から聞こえてくるといいます。
今でも西海橋(さいかいばし)から横瀬(よこせ)をすぎて、港に通じる海岸に『琵琶石』は残されているそうです。
おしまい
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