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百物語 第305話
ばめんの猫
福井県の民話 → 福井県情報
むかしむかし、金津(かなず)の町の「ばめん」という宿屋に、三蔵(さんぞう)という名の加賀(かが→石川県)の大聖寺(だいしょうじ)の侍がやってきて、夜道を大聖寺まで帰る腹ごしらえをしていました。
ふと、おかずの焼魚を見ると、何やら歯跡のようなものがついています。
三蔵(さんぞう)がその事を店の者に告げると、奥からおかみさんが出てきて、
「申し訳ございません。実は最近、同じような事が続き、ほとほと困っているのです」
と、あやまりながら、すぐに別の物ととりかえてくれました。
それから三蔵の旅仕度に気付くと、
「牛の谷峠(やとうげ)あたりで、夜中に化け物が出るという噂ですから気をつけてください」
と、声をかけました。
その言葉通り、三蔵が牛の谷峠にさしかかると、あかあかと灯りがついて、猫が踊り狂っています。
「これが、化け物の正体か」
三蔵は素早く手裏剣(しゅりけん)を投げると、それが一匹の猫に命中して、怒り狂った他の猫たちが、
「フギャーー!」
と、いっせいに襲いかかってきました。
力自慢の三蔵も、これだけの数を一度には相手に出来ず、あわてて近くの木に登ると、下からやってくる猫を順々にやっつけ始めました。
それを見た猫の親分は、
「このままでは勝てない。お前たち、『ばめんのばば』を呼びに行け!」
と、手下を金津の方へと向かわせました。
やがてやってきたのは大きな赤猫で、ずるがしこそうに頭に鉄の鍋をかぶっています。
そして素早く木を登ると三蔵のそばまできましたが、三蔵に背中を切られて、他の猫と一緒に金津の方へ逃げていきました。
「うむ。急ぐ旅だが、このまま見過ごすわけにはいかんな」
三蔵は夜が明けるのを待って、再び宿屋の「ばめん」を訪れました。
宿屋のおかみさんに事情を話すと、昨日の夜遅く、怪我をしたおばあさんが泊まりに来たというのです。
その部屋を案内してもらった三蔵が部屋の中に飛び込むと、何十匹もの猫がいて、そのまん中に怪我をした赤猫がいました。
三蔵が刀を抜くと、猫たちはあわてて窓から飛び出して、山へと逃げていきました。
そして、赤猫のたたりをおそれた町の人は、宮を建てて猫をまつったということです。
おしまい
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