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百物語 第306話
人間のことばを話したウマ
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むかしむかし、ある明け方の事、合戦(かっせん)のために出陣(しゅつじん)していたある殿さまが、陣中(じんちゅう)で病気になって死んでしまいました。
その前の日の夜ふけ、殿さまがかわいがっていた二頭のウマが、なぜか落ちつかないようにごそごそしていました。
そのうちに一頭が、
「ああ、今度はだめだ」
と、はっきりと人間の言葉でいったのです。
すると、となりにつながれているもう一頭のウマが、
「そうだな。まったく、悲しいことだ」
と、ため息をつくように長い息をはきました。
ウマ屋のとなりの部屋で病気の殿さまのことを心配して起きていた家来の者たちは、ウマの話を耳にして、身の毛がよだつほどビックリしました。
そして、すぐにウマ屋へとんでいきました。
でもウマはそれっきりなにもいわずに、おとなしくしていました。
ですが、大きな目にいっぱいなみだを浮かべていたのです。
やがて夜が明けると、ウマが話をしていたように、殿さまは静かに息をひきとったという事です。
おしまい
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