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百物語 第308話
鬼岳(おにだけ)
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むかしむかし、福江(ふくえ)の玉之浦(たまのうら)には、おそろしい化け物が住んでいました。
夜になると若い女や子どもたちがさらわれて、食べられてしまうのです。
村の者たちは怖がって、日が暮れると家の戸をピッタリと閉めてしまい、誰も外に出る者はいなかったそうです。
あるとき、村の男が漁を終えて、家への道を急いでいました。
「日もだんだん落ちてきた。急がないと、化け物が出てくるぞ」
するとそのとき、むこうの方から大きな黒い影がやってくるのが見えました。
男はあわてて、そばの木の陰にかくれました。
その影はとても大きくて、男が恐る恐る見てみると、まっ赤な顔に目がランランと光る、頭に太いツノが生えた鬼だったのです。
その鬼は肩に若い女をかついでいて、山へ入っていくところでした。
男は今にも叫びたくなるのをがまんして、ガタガタとふるえていました。
怖さのあまり、歯がガチガチとなります。
その歯の音に、鬼は足を止めました。
「おや? かすかに、人の気配が・・・。気のせいか」
鬼は男には気づかず、首をかしげるとそのまま消えてしまいました。
さあ、この話しは、たちまち村中に広がりました。
「むかしから、裏山には鬼のおるというが、あれは本当じゃった」
それ以来、村人たちは前よりももっと用心するようになったのです。
仕事も明るいうちだけで、昼をすぎるとみんな家にひきこもり、ぜったいに外には出ません。
そんな日が何日も続いたので、おかげで鬼にさらわれる者もいなくなりましたが、人間がとれなくなって困った鬼は、今度は田や畑を荒らすようになったのです。
これには村人たちも、ほとほと困り果て、いっそのこと鬼の住んでいる山を燃やしてしまおうということになったのです。
次の朝、みんなはさっそく裏の山を取り囲むと、ふもとのあちこちから火をつけました。
火はどんどん山の上の方へと燃え広がり、風にあおられて三日三晩燃え続けました。
こうして山は、すっかり焼けてしまいました。
そしてそれからというもの、鬼が出てくることはありませんでした。
そんなことがあってから、この鬼の住んでいた山は『鬼岳(おにだけ)』と呼ばれるようになったのです。
おしまい
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