福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第311話
おどぼう池
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むかしむかし、ある長者の家に、『おどぼう』とよばれる、若い使用人がいました。
このおどぼうは同じ村の『およね』という、気立ての良い娘と恋仲だったのですが、長者の息子がおよねを気に入ってしまったのです。
およねの家は長者から田畑を借りて暮している小作なので、長者が娘を嫁に出せと言えば、断る事が出来ないのですが、むしろ娘の両親は玉の輿だと喜んで、秋の取り入れが済んだら、およねを長者の家に嫁入りさせると決めてしまったのです。
しかし、嫁入りの日が近づくにつれて、おどぼうもおよねも、すっかり元気がなくなってしまいました。
でも、他の人は二人の恋仲を知らないので、元気がない事にさえ気がつきませんでした。
そして、嫁入りが間近となった秋の夜、およねは山奥の池に身を投げて死んでしまいました。
「どうして、およねは死んでしまったんだ?」
「もうすぐ、長者の家へ嫁入りできるというのに?」
みんなは、なぜ、およねが死んだのか、訳が分かりませんでした。
ただ、一人その理由を知っている、おどぼうは、がまんしてみんなの前では普段通りに振る舞っていましたが、一人になると、
「およねー、およねー」
と、いつも泣いていたのです。
それから一年ほどたったある日の事、おどぼうが、およねが死んだ池のそばで仕事をしていると、大きな赤い色のドジョウが出てきたのです。
珍しいドジョウなので、おどぼうはドジョウを捕まえると、逃げないように近くの水たまりに入れておきました。
そして夕方になり、おどぼうが帰ろうとした時、
「おどぼうー。おどぼうー」
と、誰かが呼ぶ声がしたのです。
「はて? 誰だろう?」
その声が、池の方から聞こえてきたので、はっと、ドジョウの事を思い出したおどぼうは、
「おお、そうだった。水たまりに入れたままで、可哀想な事をしたな」
と、ドジョウを池に放して、再び帰ろうとすると、また、
「おどぼうー。おどぼうー」
と、池の底から声が聞こえて来るのです。
その声を聞いたおどぼうは、びっくりしました。
「およね? ・・・その声は、およねだな!」
なんと池の底から聞こえてきた声は、死んだおよねの声だったのです。
「およね! 今行くぞー!」
おどぼうはそう叫ぶと夢中で池の中へ飛びこんで、そのまま二度と浮いては来ませんでした。
それ以来、村人たちこの池を『おどぼう池』と呼ぶようになったそうです。
おしまい
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