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百物語 第318話
平太郎屋敷の化け物
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むかしむかし、広島のある大きな屋敷に、稲生平太郎(いのうへいたろう)という、十六歳になる若者がいました。
両親が亡くなったので、身のまわりの世話をする人たちと暮らしていました。
ある日の夜、となりの部屋からうめき声が聞こえました。
となりの部屋には、平太郎の世話をしている権平(ごんべい)という男が寝ています。
その声がだんだん大きくなるので、平太郎はふとんから飛び起きて権平をゆり起こしました。
「権平! どうした! 何があった!」
権平は玉のような汗をかいていて、ブルブルとふるえながら答えました。
「実は、ものすごい大男が現れて、わたしをふとんの上から押しつぶそうとしたのです」
すると平太郎は、あきれた顔で、
「何を馬鹿な。夢でも見たのだろう」
と、部屋へ戻っていきました。
そのとき、ヒューッ! と、風がふきこんできて、行灯(あんどん)の灯が消えました。
そして障子に、赤い火の影がうつりました。
「火事か!」
平太郎は火事かと思い、大急ぎ障子に手をかけました。
すると火の影は消えたのですが、誰かが反対側から押さえつけているようで、いくら力を入れても障子はピクリとも動きません。
「そこにいるのは何者だ!」
すると稲妻の光に照らされて闇の中からうかびあがったのは、障子を反対側から押さえている、丸太のように太い毛むくじゃらの腕だったのです。
「さっき権平が言った大男は、こいつか!」
平太郎が柱に片足をかけて、何とか障子を開くと、強い光は、となりの家の屋根の上あたりからさしてきました。
よく見ると、それは一つ目の化け物の目玉です。
さっきの赤い火の影は、この化け物の目の光だったのです。
化け物の腕が、平太郎を捕まえようと伸びてきました。
「なにくそ!」
平太郎は刀を手にすると、太い毛むくじゃらの腕に斬りかかりましたが、化け物の腕はそれをさけると、すーっと引っ込みました。
その騒ぎを聞いて、となりの家にすむ友だちの権八(ごんぱち)が、家の中へ飛び込んできました。
「どうした! 何があったんじゃ! たったいま門の前で、茶碗を持った小坊主がおれの前を通りすぎていったが」
「そいつがあやしい!」
平太郎は外へ出ていきましたが、権八が出会ったという小坊主の姿はもうありませんでした。
そしてこの夜から、なんと一ヶ月もの間、ぴょんぴょんと飛び跳ねる首の化け物や、一メートルもある大ガニの化け物など、毎晩の様に平太郎の屋敷に現れたという事です。
おしまい
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