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百物語 第330話

坊主斬り

坊主斬り
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 むかし、広島県の東城町(とうじょうちょう)の粟田(あわた)にある大奥寺(だいおうじ)のお坊さんが、竹森の庄屋(しょうや)の名越家(なごしけ)の法事(ほうじ)に招かれて、大変なもてなしを受けました。
 この当時は大飢饉(だいききん)で村人の多くが飢え死にしているというのに、大金持ちの名越家の蔵(くら)には十分すぎるほどのたくわえがあったのです。
 中でも大好物のそばが山盛り出された時には、お坊さんは飛びあがらんばかりに喜んで、とにかく食べられるだけのそばをかき込んだのです。
 お坊さんがあまりにも夢中で食べ続けたので、帰る頃にはすっかり日が暮れてしまいました。

「ふーっ、さすがに食い過ぎたか」
 お坊さんが大きなお腹をさすりながら竹林から粟田へ抜ける峠へとさしかかりますと、やせ細った二人の侍が目の前に立ちはだかりました。
 そして侍は異様に光る目で、お坊さんの大きなお腹を見すえると、
「法事の帰りらしいが、何やらたらふく食ってきた様だな」
と、話しかけました。
「ああ、うまいそばを、山ほど食ってきた」
「そうか、あるところにはあるものだな。・・・して、一つ聞くが、坊主の仕事は人を助ける事だな」
「いかにも」
と、いうお坊さんの返事を聞くなり、後ろへ回った侍の一人が、
「坊主、許せ!」
と、一声叫んで、お坊さんを斬り殺してしまいました。
 そしてもう一人の侍がお坊さんのお腹を斬り裂き、中から血だらけのそばをかき出しました。
 それからそのそばを小川へ持って行くと、血を洗い流しながらものすごい勢いで食べ始めたのです。

 それ以来、この峠は『坊主斬り』と呼ばれたそうです。

おしまい

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