福娘童話集 > きょうの百物語 > その他の百物語 > 死の予告をした先生 静岡県の民話 
      第 2話 
         
          
         
死の予告をした先生 
静岡県の民話 → 静岡県情報 
      
       むかしむかし、ある町に、林斎(りんさい)という学者が住んでいました。 
         
 ある年の事、林斎は知り合いをたずね歩いては、 
「これまで、いろいろお世話になりました。 
 わたしは今年の八月十二日に、往生(おうじょう→あの世へ行く事)する事にしました」 
と、言うのでした。 
「はあ・・・」 
 知り合いの人たちは、返事に困ってしまいました。 
 
「林斎先生は勉強のしすぎで、頭がおかしくなったのかねえ」 
「まじめな顔をして、よくもあんなホラがふけるものだ」 
「縁起(えんぎ)でもねえから、おれは先生が帰った後に塩をまいたよ」 
 みんなは誰も、林斎の言葉をまともに受け取りませんでした。 
 
 そして、八月十一日。 
 林斎は、町のお寺へ出かけると、 
「わたしは明日死にますので、どうか、お棺(かん)の用意をお願いいたします。そのお棺は・・・」 
と、自分でお棺を注文(ちゅうもん)をしたのです。 
 お寺の人はあきれましたが、相手は名の知れた学者なので、 
「わかりました。それでは、ご注文通りに用意させていただきましょう」 
と、林斎の望み通りにする事にしました。 
 
 そしていよいよ、八月十二日になりました。 
 林斎は死んだ人がまとう白い衣を着て、ゆっくりとお寺へやって来ました。 
 そして、自分が注文したお棺の出来ばえに満足すると、 
「では、あとはよろしくお願いします」 
と、自分でお棺に入って、ふたを閉めるように言いました。 
 お棺の中から、しばらくお経の様な言葉が聞こえていましたが、やがて静かになりました。 
 それを見てあきれた和尚(おしょう)さんが、 
「眠ってしまったようだな。しかし先生も、イタズラがすぎる。少し、説教をしてやらねば」 
と、小僧に命じてお棺のふたを開けさせました。 
 すると、  
「あっ!」 
 小僧も和尚さんも、お棺の中を見てビックリです。 
 なんと林斎は両目を見開いたまま、本当に死んでいたのです。 
      おしまい 
         
       
        
 
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