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第 19話
かかと太郎
青森県の昔話 → 青森県の情報
むかしむかし、ある山奥の崖の上に、山姥(やまんば)が小さな小屋を建てて住んでいました。
山姥は毎日の様に山から里にやって来ては、
「酒を出せ! 食べ物を出せ!」
と、叫んで歩いていました。
その里には若夫婦が住んでいて、お嫁さんのお腹には赤ちゃんがいます。
ある日の事、夫が町に買い出しに行こうとすると、お嫁さんが言いました。
「一人だと山姥が怖いから、わたしも連れて行って」
「しかし、外はこの大雪だ。もし転んでお腹でも打ったらどうする。それにこの大雪なら、さすがに山姥も来ないだろう」
「でも・・・」
「そんなに心配なら、お前を長持(ながもち)の中に入れてカギをかけ、家の高い所に吊してやろう」
「はい、お願いします」
夫はお嫁さんを長持の中に入れてカギをかけると、天井の張りに吊して出かけました。
ところが夕方になると雪が止んだので、山姥が里にやって来たのです。
「酒を出せ! 食べ物を出せ!」
山姥は若夫婦の家の前で立ち止まると、家の中に入って来て言いました。
「酒を出せ! 食べ物を出せ!」
しかし、返事がありません。
「おや? 確かに家の中から、人間のにおいがしたのだが」
山姥は家中を探し回ると、大きな声で言いました。
「どこだ! どこに隠れた! 隠れていても、においでわかるぞ!」
お嫁さんは天井の長持の中で息をひそめて、ブルブルと震えています。
「ふむ、出て来ないつもりか。それなら・・・」
山姥は、お嫁さんのたんすから縫い針を取り出すと、それの縫い針に命令しました。
「さあ、お前の持ち主の所へ、飛んでいけ!」
すると縫い針は、
パン!
と、音を立てて飛び上がると、天井に吊された長持に突きささったのです。
「そうか、あそこか」
山姥は手足の鋭いツメを家の壁に突き刺すと、ヤモリの様に壁や天井を登って長持ちを吊るしている縄を切り落としました。
そしてカギのかかった長持を怪力で壊すと、中でブルブル震えているお嫁さんを頭からバリバリと食べてしまったのです。
その日の夜遅く、夫が家に帰ってみると、家の中には壊された長持と山姥が固くて食べ残したお嫁さんのかかとが残されていたのです。
それを見て全ての事を知った夫は、泣きながらお嫁さんのかかとを紙袋に入れました。
そしてそれを仏壇に置くと、毎日毎日お経を唱えて殺されたお嫁さんとお腹にいた赤ちゃんの成仏を祈りました。
そんなある日の事、お嫁さんのかかとを入れていた紙袋からゴソゴソと音がするので、不思議に思った夫が中を見てみると、なんとかかとのまん中がぱっくりと割れて、中から小さな男の子が生まれたのです。
「なんと、かかとから赤ん坊が! これはきっと、山姥に殺された二人の生まれ変わりに違いない」
夫は男の子に『かかと太郎』と名付けて、大切に育てました。
さて、このかかと太郎は生まれた時は小さかったものの、ご飯を一杯食べさせると一杯分だけ、二杯食べさせると二杯分だけ、三杯食べさせると三杯分だけ大きくなる子どもで、十年もすると村一番の大男になっていたのです。
そして父親から母親が山姥に食べられた事を聞かされると、白くて平たい石と菜種油(なたねあぶら)を持って山姥退治に出かけました。
「道に迷ってしまった。すまんが今夜泊めてくれ」
かかと太郎は道に迷った旅人をよそおって山姥の小屋に入れてもらうと、泊めてもらうお礼にと山姥の大好きなお餅を焼くふりをして、持ってきた白くて平たい石を焼き始めたのです。
そして湯飲みに菜種油をなみなみとそそぐと、焼けた白い石を山姥に差し出して言いました。
「ばあさん、餅が焼けたぞ。この餅は、一口で食べるとうまいぞ」
「おお、そうかそうか。ではさっそく」
山姥は大きな口を開けると、焼けた白い石をパクリと飲み込みました。
そのとたん、
「あぢぢ! あぢぢ!」
と、お腹の中をやけどした山姥は、お腹を押さえて転げ回りました。
「あわてて食うからだ。ほれ、この水を一気に飲むといい」
かかと太郎が菜種油の入った湯飲みを差し出すと、山姥はそれを一気に飲み干しました。
すると山姥のお腹の中で菜種油が燃え上がって、さすがの山姥も死んでしまいました。
「おっかあ、仇はとったぞ!」
こうしてかかと太郎が山姥を退治してくれたので、それから里の人々は平和に暮らす事が出来ました。
おしまい
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