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      第 53話 
         
           
         
友が島の大蛇  
和歌山県の民話 → 和歌山県の情報  
       むかしむかし、和歌山県和歌山市の紀淡海峡に浮かぶ島友ヶ島(ともがしま)に人を丸飲みにする大蛇が住んでいて、今まで多くの人が犠牲になりました。
     
 これを知った役小角(えんのおづの)と言う呪術者が、法力(ほうりき)でその大蛇を池の底に封じ込めたのです。 
 でも大蛇が人を食べるのは、生きるために必要な事。 
 生きるために生き物を食べるのは、人も同じです。 
 そこで役小角は、池の底に封じ込めた大蛇に言いました。 
「池のそばで笛を吹く人間は食べてもよい。だが、笛を吹いていない人間は決して食べるな」 
 そして役小角は近くの村々に大蛇を封じ込めた事を伝えると、この島で笛を吹く事を禁じました。 
 それ以来、大蛇が姿を現わすことはありませんでした。 
 
 さて、それから数百年が過ぎて、人々は大蛇の事を忘れてしまいました。 
 
 ある日の事、徳川家康の十男で紀州徳川家の南竜公(なんりゅうこう→徳川頼宣)が、狩りをしにこの島を訪れました。 
 そして、この島では笛を吹いてはいけないとの言い伝えを知らなかったので、南竜公は池のそばで笛を吹いてしまったのです。  
 するとたちまち池の底に封じ込められていた大蛇が姿を現わし、大きな口から火を吐きながら南竜公を丸飲みにしようとしました。 
 それを見ていた漁師が、南竜公に叫びました。 
「殿さま! はやくこの舟に!」  
 漁師は南竜公を舟に乗せると、追いかけてくる大蛇から必死に逃げました。  
 しかし大蛇は、何百年ぶりの獲物を逃そうとはしません。 
 大蛇は海に飛び込むと、逃げる舟を追いかけて海を泳ぎます。 
 そして舟に追いついた大蛇は、南竜公を飲み込もうと口を大きく開きました。 
「もう駄目だ」 
 あきらめた漁師が舟をこぐ手を止めたその時、南竜公は持っていた薙刀(なぎなた)を大蛇に見せて言いました。 
「大蛇よ、これは『静御前の薙刀(しずかごぜんのなぎなた)』という名刀だ。悪いがこれでがまんしろ!」 
 すると大蛇は大きな口でその名刀を受け取り、自分の池へと戻っていきました。  
 
 この大蛇が封じ込まれたという池は、深蛇池(しんじゃいけ)と呼ばれています。  
      おしまい 
      → 静御前の薙刀は、源義経の愛妾、静御前が使ったとされる薙刀で、複数存在すると言われています。 
       
         
           
         
        
        
      
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